鬼部長の優しい手



楽しそうに笑うお母さんとは対照的に
固まったままなにも言わないお父さん。

「あれ?お父さんはなにかないの?
ほら、綺麗とか。」


少し冗談混じりにそう言ってみた。
するとお父さんは慌てたように声を出した

「あ、ああ。すごく綺麗だ。」

「なにそれ!」

慌てるお父さんが面白くて私はそう言って思わず笑ってしまった。


お父さんのこんな姿はじめて見た。
いつも仏頂面で怒られたイメージしか
なかったのに。

あ、そんなとこ部長とよく似てるかも。


私はそんなことを考えて、
また笑った。


「さっき塚本くんにも会いにいったんだけど、すごく素敵だったわよ!」


嬉しそうにそう言ったお母さん。

…部長ももう準備終わったのかな。
私が一番に見たかったのになー、
お母さんったら。


私はひとりそんなことを考え、
小さく笑った。



「じゃあ、涼穂
私もそろそろ行くから。
緊張で倒れないようにね?

お母さん、
一緒に行きましょう。」


黛実は私に意地悪な笑みを浮かべた後、お母さんの方を向いて
そう言った。


「そうね。じゃあね涼穂。
お父さんもしっかりね!」

お母さんはそう言ってウィンクをし、
黛実と香澄先輩と出ていった。