鬼部長の優しい手



「え…?」


またも、山本の言葉の意図がわからなかった私は間抜けな声を出した。



いつまで山本なの?ってなに?
意味わかんない。



「俺達もうすぐ一緒に住むんだよ?
なのに、黛実ちゃん、いつまでたっても
俺のこと山本って呼んでる。


そろそろ名前で呼んでよ。
“梓”って。」



「え?」




“なんで急にそんなこと”と反論しようとした瞬間、山本は持っていたマグカップをテーブルに置き、空いた両手で私を
ぎゅっと抱き締めた。





その瞬間、驚いた私の手から、
山本と色違いの白のマグカップが
ことんっと音をたてて滑り落ちた。



「え、待って、山本…?
急にどうしたのよ?」


「急じゃない。早く呼んでほしかった。


ほら、早く。
梓って呼ぶまで離さないよ?」



抱き締めながら、
私の耳元でそう囁いた山本。




いつものふざけた雰囲気とは全く違う。


“男”の顔をした山本が、そこにはいた。




「ど、どうしても呼ばなきゃだめ?」


「ダメ。


ほら、早く呼べよ。」




いつもと違う強い口調。


そんなこと、耳元で言わないでよ。




耳が弱いと山本に知られてしまったときが運のつき。



こいつは、なにかあると
こうやって耳元で囁いてくるようになった。