数日後。。。

いつものように農作業していると遠くから走ってくる人影が見えた。

『んっ?あれは・・・』

彼女だった──・・

『・・・会いにきましたっ』

俺に会いに来てくれた・・・そして・・・

『会いたかったですっ』
彼女も同じ気持ちだった──・・叶わない・・届かない想いだと──・・

そして、お互いの想いが通じ、現在に至る。。。




『・・・また勝手に宮殿抜け出してきたんですか?』

『もぅ~!!また敬語になってる!』

『あっ・・でも、一応・・・ほら・・・』

『いやなのっ!!』

『わっ・・わかったよ・・・』

『よしっ!!』

この光景をまたいつものことだと村の人たちは微笑ましく思っていた・・・朱華が遊びに来るようになってから、なんか村の雰囲気が明るくなった。でも、もちろん村のみんなは彼女の家のことなど知らない・・・都から遊びに来た女の子としか思ってない。

クスクスと微かな笑い声が聞こえてくる・・・
俺は急に恥ずかしくなった・・・
そうだ・・・彼女が俺に抱きついたままだった・・・

『・・・あっ・・・朱華・・・いい加減離れろよ!』

俺は無理矢理はねのけた・・・すごくムスッとしてる・・・

『ごめん・・でもほら・・みんな見てるしさ』
プイッとそっぽを向いてしまった・・・

フッ・・・と視線を落とした先に彼女がいつもはつけていない筈の腕輪が光っていた。。。

それは、深い青い色の玉(ぎょく)が埋め込まれた腕輪──・・
そして、その玉を守るように一匹の龍の細工がされていた。
急に俺はその玉に目を奪われ、釘付けになった。

『その腕輪は?』

朱華の顔がパァ~っと明るくなり、そして、話し始めた。

『あっこれ?これはね・・・家の宝物庫で見つけたのっ☆』

『えっ!?そんなの勝手に持ち出したりして、大丈夫なのか??』
と、聞きつつも、その後、俺には彼女の声も周りの音も何も聞こえていなかった。

玉から目が離せなくなっていた──・・その時だった・・・声が聞こえた。

『主・・・』

そして、まるでその声に導かれるかのように玉に手を触れた──・・
その瞬間・・・玉から淡い光が漏れ出し、あっという間に輝きを増し、まわりの景色を包み込んだ。

眩しくて閉じていた目を開くとそこには不思議な空間が拡がっていた。

そしてそこには、一匹の蒼い龍がいた──・・

まるで吸い寄せられるように歩み寄ると龍の姿がみるみる人の姿に変わっていった。
その姿は青年のような感じで蒼く長い髪ととても澄んだ瞳をしていた。
そして、頭の中に声が響いてくる・・・

(我に力を示せ・・・)

『ち・か・ら?』

(力を示せ!!)

次の瞬間・・・

大きな衝撃波が俺の身体を通り抜けた。思わず目を覆い、後ずさりした。

その瞬間、なんだか胸が熱くなった・・・力が漲ってくるような感覚が身体中を駆け巡り、その時俺は分かった。

示すべき力が・・・

そして、光る玉が俺の中から出てきた。

『これは・・・?』

その光る玉を見つめていると、スッと手が伸びてきて玉に触れ、再び頭の中に声が響いた。
(これが汝の力の形・・・まだまだ未熟だ。だが──・・)

カチッ・・・カチッ・・・

何かを考え込んでいる・・・どれくらい時間が経ったのだろう?

何分?  何時間?
俺はただ立ち尽くすしかなかった。
彼は何も言わずただ玉を見つめている。

そして、再び声が響いた。

(・・・承知した・・・汝の力、しかと見せてもらった・・・まだ未熟な部分があるがそれはこれからのお前次第だ・・・汝の傍でその成長を見届けよう・・・我が力、必要なときは呼ぶがいい・・・)

また淡い光が俺を包み込む。

眩しさに目を閉じ、再び開いたときには元の場所に戻っていた。

『大丈夫?・・・って聞いてる?』

時間が進んでいない・・の・・か?

何時間もここを離れてたような気がするのに・・・

まさか・・夢?



あそこにいた時間はまるで永遠のような時間・・・しかし、進み続けるはずの時刻(とき)はその歩みを止めていた。

『あれは・・・何・・だったんだ・・?』

思わず口に出していた。

『えっ?何?』

『えっ?・・・あっ・・ううん、何でもない』

『そうな・・の?』
一瞬、朱華の顔が曇ったがすぐに、いつもの笑顔に戻った。

『あっ!そうだっ!この腕輪、周龍にあげるねっ☆』

『えっ・・・?でも・・・』
こんな高そうなもの、もらうわけにはいかない。

『いいのっ!あげるつもりで持ってきたものだから』
って言ってくれたので、結局もらうことにした。


この時の俺はまだ何も知らなかった、玉が俺の所にきたのはすでに決められた運命だったことに・・・

絡み合う運命の糸・・・回り始める歯車・・・

そして、知ることになる。

あの蒼い龍の正体・・・四神・・三人の仲間。


さらに、運命の渦に飲み込まれていく・・・始まってしまった戦い・・・この時、俺はかけがえのない人を失ってしまう──・・



そして、俺たちは定められた運命に従うしかなかった。
因縁が再び始まりを告げた。
奴との戦いの中、ボロボロになりこれ以上は体力的にも精神的にも限界だった──・・

諦めかけていたその時、

『絶対に終わらせたりなんかしない──・・!!』

凛とした強い声が響いた。

『・・・?』
俺は妙な胸さわぎがして・・声のする方を見た。

すると・・・彼女は俺の前まで歩いてきた。

『このままじゃ・・・だめだよね?』
そう言って振り向いた瞬間、彼女は朱い光に包まれ、俺の目の前から消えた──・・



私は不思議な空間に立っていた・・・そして、そこにもう一匹・・・朱い鳥。

『朱雀・・・』

朱い鳥が人の姿を形作っていく──・・

『どうした?』

『お願いを聞いてほしいの・・・』

『・・・なんだ?』
私は朱雀に笑顔を向けた。

『あいつを封印するための力を貸してほしいの』

朱雀は一瞬、沈黙したがすぐに答えを言った・・・

『──・・それは我々だけではどうしようもない・・・白龍と黒龍の力がなければ完全に封じることはできない』



『それでもいいの・・・例え完全じゃなくても・・・ここで終わるわけにはいかないから』

少しの沈黙・・・

その沈黙を破ったのは私だった。

『ねぇ・・・、朱雀・・私・・・・生まれ・・変われるかな?』

その言葉は、死を覚悟した者の言葉だった。

『──・・お前は誰の守護の下にいると思ってる?我は不死の鳥、朱雀・・お前が望むなら何度でも蘇る』

『そう・・だね。じゃあどんなに時間が経って、姿が変わったとしても、また朱雀に会えるね──・・』

再び沈黙・・・そして僅かに聞こえる嗚咽。

『周・・に・・・も・・また・・・会えるかな・・・?』
怖かった・・・彼に会えなくなることが・・・

震える声で途切れ途切れに言葉をつむいだ・・・

『必ず会える・・・それがお前の望みなら──・・』

『ありがとう朱雀。それじゃあ、私のお願い・・・聞いてくれる?』

『しょうがない主だ・・・・私の力をすべてお前に託す・・・来世で再び相まみえるまでしばしの別れだが、我らが再会するときは戦いの時──』

『その時は、同じ過ちはもう二度と繰り返さない!』

『・・・我の選択は間違っていなかったようだ・・・主はお前だけだ』

『さぁ!行くよ!朱雀──・・』

朱雀は羽根を大きく羽ばたかせた・・・そして、二人を包んでいた光が消えていく・・・

元の場所に戻ってきた彼女は、満面の笑みを周龍に見せた。

そして、再び前に向き直り、言った・・・

『・・・また会おう・・ね・・・・・・・私を必ず見つけて╼╼╼・・・約束だよ』

その言葉を聞いたとき、何かを感じて彼女に駆け寄ろうとしたが・・・

『だめだよ・・・!』

遮った言葉と同時に、彼女はまた光に包まれた・・・

今度は真っ白な光──・・・

それが眩しすぎて目を閉じた。

次に目を開けたときに見た光景は彼女が鮮やかな紅(あか)に彩られた大地に倒れこむ姿──・・

(そんな・・・いやだ・・・)

『いやだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ╼╼╼・・・・』





                  序章 了