軽く頭を下げると、初音はマンションへ戻って行った。

その背中を眺めながら、

「見惚れてんじゃねぇよ」

未だにぼんやりして心ここに在らずな隣に向かって言う。だが那智は反論することもなく、

「炊き立てだな」

初音からの差し入れについて、無表情で感想を述べる。


「ああ、そう。ありがたいね」

俺も袋から、ラップに包まれた手の平サイズのそれを取り出し、躊躇わずに食す。毒味は済んでいる訳だし安心だ。

口の中を満たす温かくて優しい味に、じーんと胸が熱くなる。そして、乃亜のことが無性に恋しくなった。


「『ご飯がたくさん余った』ってのも大嘘だ」

那智は淡々とした口調で言い、俺に向かって意味ありげにフッと目を細めて見せた。