「あと少しで証拠がそろうんです。それまではあの子たちも動かさないで欲しいです」
「何言ってんだよ。あの子たちがここで何をさせられてんのか、お前は知ってんだろ? ここの存在を知ったばっかの俺たちだって、だいたい想像つくんだ、潜入してるお前なら尚更だろ」
「もう酷いことはされませんから」
「なんでそう言い切れるんだよ」
「岩淵には、有坂兄と芹沢が動き出した、かなりやばい状況だ、今は大人しくしてた方がいいって伝えてありますから。そっちの裏稼業は休業中です」
ああ、だからか。
『こいつらが有坂と芹沢か?』
『有坂と言っても、この人は弟の方です』
さっきの岩淵と倉橋の会話を思い出した。
有坂弟も動き出していますけど、そこは重要じゃないらしい。
それまで黙っていた那智が、こらえきれなくなったように口を挟んだ。
「もう酷いことされないんだとしても、あの子たちはそんなの知らねぇから、未だに恐怖に怯えて生きた心地しねぇだろ。それなのに放っておくなんてできねぇよ」
「可哀想だとは思います。でも、ここで僕たちが踏ん張って、あいつらを根絶やしにしないといけないんです。中途半端なことをやれば、あの子たちは救えても、また新たな被害者が出ます」
あの子たちも救って、あの子たちのような被害者が二度と出ないようにしましょう、と続けて倉橋は口を堅く結んだ。その表情から、倉橋の方が俺たちの何百倍も、その葛藤に苦しみ続けてきたんだと気付く。
「お前が正しいのはわかった。けどせめてあの子たちに、もう大丈夫だってことを伝えてやれないか?」
俺が言うと、
「それはダメだ。そんなことしたら、倉橋が危ない」
那智にすかさず押しとどめられた。確かに、あの子たちから情報が洩れるリスクがある。何も知らないままにしておく方が安全だ。
「裏口から逃げてください。急いで!」
倉橋はそう言うと、折り畳みナイフの先端を自分に向け、右手で刃の部分をぎゅっと握った。指の隙間から血がしたたり落ちる。
「悪いな、倉橋」
那智は言うと同時に、倉橋の左頬を拳で殴りつけた。倉橋の顔が吹き飛ぶ。そしてその場に倒れ込んだ。
俺と那智は部屋を飛び出し、元来た道を一目散に駆け戻る。ほんの少し間を置いてから、倉橋の叫び声が聞こえた。
「やつらが逃げた! 拘束前にボディチェックしとけよ、間抜けが! 早く追えー!」
たちまち無数の足音が聞こえ始める。恐ろしいから振り返りたくない。
裏口から飛び出した。が、建物の両サイドからも追っ手の魔の手が迫る。
「皆人くん、泳げる?」
俺の返事を聞く前に、那智はもう湖に飛び込んでいた。
「中学時代、水泳部主将だぜ」
一応答えて那智に続いた。
「何言ってんだよ。あの子たちがここで何をさせられてんのか、お前は知ってんだろ? ここの存在を知ったばっかの俺たちだって、だいたい想像つくんだ、潜入してるお前なら尚更だろ」
「もう酷いことはされませんから」
「なんでそう言い切れるんだよ」
「岩淵には、有坂兄と芹沢が動き出した、かなりやばい状況だ、今は大人しくしてた方がいいって伝えてありますから。そっちの裏稼業は休業中です」
ああ、だからか。
『こいつらが有坂と芹沢か?』
『有坂と言っても、この人は弟の方です』
さっきの岩淵と倉橋の会話を思い出した。
有坂弟も動き出していますけど、そこは重要じゃないらしい。
それまで黙っていた那智が、こらえきれなくなったように口を挟んだ。
「もう酷いことされないんだとしても、あの子たちはそんなの知らねぇから、未だに恐怖に怯えて生きた心地しねぇだろ。それなのに放っておくなんてできねぇよ」
「可哀想だとは思います。でも、ここで僕たちが踏ん張って、あいつらを根絶やしにしないといけないんです。中途半端なことをやれば、あの子たちは救えても、また新たな被害者が出ます」
あの子たちも救って、あの子たちのような被害者が二度と出ないようにしましょう、と続けて倉橋は口を堅く結んだ。その表情から、倉橋の方が俺たちの何百倍も、その葛藤に苦しみ続けてきたんだと気付く。
「お前が正しいのはわかった。けどせめてあの子たちに、もう大丈夫だってことを伝えてやれないか?」
俺が言うと、
「それはダメだ。そんなことしたら、倉橋が危ない」
那智にすかさず押しとどめられた。確かに、あの子たちから情報が洩れるリスクがある。何も知らないままにしておく方が安全だ。
「裏口から逃げてください。急いで!」
倉橋はそう言うと、折り畳みナイフの先端を自分に向け、右手で刃の部分をぎゅっと握った。指の隙間から血がしたたり落ちる。
「悪いな、倉橋」
那智は言うと同時に、倉橋の左頬を拳で殴りつけた。倉橋の顔が吹き飛ぶ。そしてその場に倒れ込んだ。
俺と那智は部屋を飛び出し、元来た道を一目散に駆け戻る。ほんの少し間を置いてから、倉橋の叫び声が聞こえた。
「やつらが逃げた! 拘束前にボディチェックしとけよ、間抜けが! 早く追えー!」
たちまち無数の足音が聞こえ始める。恐ろしいから振り返りたくない。
裏口から飛び出した。が、建物の両サイドからも追っ手の魔の手が迫る。
「皆人くん、泳げる?」
俺の返事を聞く前に、那智はもう湖に飛び込んでいた。
「中学時代、水泳部主将だぜ」
一応答えて那智に続いた。



