ロシアンルーレットⅣ【クライムサスペンス】

倉橋は矢神たち全員が部屋から出るのを見届けてからこちらを振り返り、

「さてと」

と言って、俺たち二人と向かい合ってしゃがみ込んだ。

「まったくもう、お二人さんはどうして、僕の仕事を増やすかなぁ」

俺と那智を交互に見ながら、倉橋がため息まじりに呟いた。

「お前が悪事を働くからだろ! 俺たちは刑事なんだ。悪を取り締まるのが仕事なんだよ」

ムカついたので声を荒げて言い返した。けれど那智は至って冷静で、

「訊きたいことって何だよ?」

と倉橋に問う。

「別に」

どうでも良さそうに倉橋が言う。

「『別に』って、どういう意味だよ?」

更にいきりたつ俺。しかし倉橋は全く動じることなく、落ち着いた様子でゆっくり立ち上がった。そして、

「時間稼ぎですよ。あのままあいつらに殺された方が良かったんですか?」

言いながら、スーツのジャケットの内ポケットから折り畳みナイフを取り出し、ピンと甲高い音を鳴らしてブレードを飛び出させた。

「やめろって。もう刺されるのはまっぴらなんだよ。そんなんで刺されるぐらいなら、冷凍される方がましだ。自分で入るから、早く冷凍庫開けてくれよ!」

手も足も縛られたまま、椅子ごと立ち上がって、ぴょんぴょんジャンプしながらスチール扉に向かって移動した。

「皆人くん、落ち着いて」

那智の声がすぐ近くで聞こえ、背後からぽんと左肩を叩かれた。動きを止め、ゆるゆると振り返れば、那智が困ったような苦笑を浮かべて立っていた。那智は拘束から解放されて自由の身になっていた。

「あれ? 那智くん、どうやって?」

「倉橋にほどいてもらった」

倉橋に視線をやれば、ナイフを顔の横に掲げて持ち、得意顔でこちらを見ていた。

「ちょっとどういう状況かわかんねぇけど、俺のロープもほどいてくれたりすんの?」

「有坂さんは冷凍庫に入るんですよね?」

倉橋はいたずらっぽく微笑んで言う。

「そういうのいいから、早くほどけよ。いや、ほどいてください」

丁寧にお願いした。

絶体絶命かと思いきや、あっけなく開放された俺たち。

「じゃあ、俺たちはこれで失礼するよ。もう邪魔はしねぇから安心しろ」

倉橋に向かって言い、那智と部屋を出ようとすると、

「ちょっと待って。有坂さんたちこれからどうするつもり?」

と倉橋に引き留められる。

「もちろん、あの子たち全員を連れてここを出るから、それまでお前は、やつらの気を引いとくとかして協力しろ」

俺が返せば、

「やっぱりだ。それされると困るんですよ」

倉橋は本当に困った顔をする。しかし俺も、この件に関しては頑として譲る気はない。

「なんでだよ? お前もこっち側の人間だろ? それぐらい協力してくれたっていいじゃねぇか」