ロシアンルーレットⅣ【クライムサスペンス】

「くせえな。死体でも入ってんじゃねーだろな」

鼻をつまみながら俺が言うと、

「いちいち防臭対策なんかするわけねぇから、生ごみだけで充分臭いだろうよ」

と平気そうな那智。「それに死体なら」と言いかけて口を噤む。

「なんだよ、言えよ」

「いや、いい、やめとく」

「教えろよ、気になるだろ」

などとじゃれ合っていたら、鉄扉が開錠される音が聞こえ、俺たちは慌ててポリ容器の陰に身をひそめた。とにかく臭い、臭すぎる。

コック服を着た小太りの男だった。浅黒い皮膚に堀の深い顔、どうみてもアジア系の外国人だ。一応料理は出しているようだ。そりゃそうか。

男はわざわざ外へ出てきて、ビニール袋にぎゅうぎゅう詰めにされた生ごみをポリ容器に放り込み、スラックスのサイドポケットから何かを取り出す。

煙草だ。俺も吸いたい。男は煙草を一本くわえてライターで火をつけた。気持ちよさそうに紫煙を吐き出す。

俺たちは屈んで男の様子を窺っていたが、那智が突然動き出した。自分の足元に転がっていた小石を拾うと、湖に向かって横投げした。美しいサイドスローフォームだ。石ころは男の視界には入らない低さで一直線に飛んで行き、男の向こう側の湖に、水面で三回跳ねてから沈んだ。

男はその音に驚き、石が沈んだ辺りを凝視する。男がこちらに後頭部を向けた瞬間、那智は低い姿勢を保って男の背後に忍び寄ると、音もなくすっと立ち上がり、素早い動きで自分の右腕を男の首に巻き付けた。吸いかけの煙草が男の手から離れて落ちる。もったいない。

男と那智は重なって後方へ倒れ、二人とも地面に尻をついた。それでもなお、那智は男の首を絞めあげ、男も必死にもがいて抵抗する。声帯を締め付けられているようで、口をパクパク開くが声は出なかった。

やがて、男はぐったりと脱力し、那智は男の下から這い出てきた。

「ただのコックなのに殺したのかよ?」

俺が咎めるように訊くと、

「頸動脈圧迫しただけだって、死んでねぇよ」

とどうでも良さそうに返しながら、那智は鉄扉を開けて侵入した。俺もそれに続く。

入ってすぐ左手にある部屋から、男の怒鳴り声が聞こえていた。気付かれないように窓を少しだけ開け、俺と那智は縦に重なって中を覗き見た。いかにも反社のオフィスって感じの古臭いデザインの事務室で、いかにも反社って感じの輩が二人居た。

一人は椅子に偉そうにふんぞり返って座り、もう一人は下を向いて立っている。

「何やってんだよてめぇら。少しは頭使って考えろよ」

それは写真で見た岩淵だった。かなりご立腹のようだ。この部下が何かヘマをやらかしたんだろう。