ロシアンルーレットⅣ【クライムサスペンス】

「私の妻です」

と辻岡先生は俺たちに奥さんを紹介した。

「その子は?」

俺が訊くと、奥さんの方が口を開いた。

「先日、昴がなんの前触れもなく、この子を連れて突然帰省したんです。この子を預かってほしいと言われました。虐待されていたので保護したと言っていました。詳しくは知らない方がいいと、それ以上は話してくれませんでした。名前は『あさみななこ』ちゃんだそうです。よっぽど怖い思いをしたんでしょう、声が出なくなってしまったようです。なので、書いて教えてくれました」

可哀そうに。一体誰がそんな酷いことを。

「昴は警察も信用できないと言っていました。それで、この子を守るために、わざわざこんなところまで連れて来たんだと思います」

「刑事さん、この子をお願いできますか?」

辻岡先生が言う。この少女が唯一の手掛かりなのか。

「それからこれを」

辻岡先生が俺の右手をすくうように持ち上げ、何かを握らせた。手の平を開いてみれば、ケースに入ったSDカードだった。

「息子に見るなと言われたので、中は見ていません。『実家に行け』とだけ言われたという者が来たら、少女と一緒に委ねて欲しいと頼まれました」

ああだから、実家に行けの一点張りだったのか。

「あの子は……昴は容疑者なんでしょか?」

奥さんがすがるような眼で俺を見て問う。

「いえ。被害者の方です」

俺が答えると、

「怪我でもしたんですか?」

と不安そうに訊く。

「いまのところは大丈夫ですけど、なんらかの事件に関わっているのは否定できないので……警察に出頭して全てを話してくれれば、昴さんの安全を確保できるのですが」

犯罪組織に潜伏中などとはとても言えなかった。

「もし昴さんから連絡があったら、ここに電話するよう説得してもらえないですか」

那智は上着のポケットからペンとメモ用紙を取り出して、自分の名前と携帯電話の番号を書いて奥さんに渡した。

「私たちの言うことを聞くような子じゃないけど」

と奥さんは自信なさそうに言うが、辻岡先生は、

「できる限りのことはやってみます」

と言って、力強く頷いてみせた。