ロシアンルーレットⅣ【クライムサスペンス】

辻岡の父親のクリニックは、山が近くに見える田舎町にあった。建物はかなり古いらしく、外観は薄汚れていた。それでも駐車場は6割ぐらい埋まっていたし、待合所にも、高齢者から小さな子どもまで、幅広い年代の患者がソファーに腰かけていた。

那智が受付の中年の女性に声をかけた。

「すみません、辻岡先生に、息子さんの件で少しお話をうかがいたいんですが」

言いながら、彼女だけに見えるように警察手帳を差し出した。

「辻岡は今、診察中ですが……どういったご用件でしょうか」

「個人情報なので要件まではちょっと」

「ああ、はい。確認してまいりますので、少々お待ちいただけますか?」

「はい」

受付の女性は5分もしないうちに戻って来た。

「すぐにお呼びしますので、掛けてお待ちください」

言ってソファーを手の平で指した。

診察室から患者が出てきて数分後、看護師が待合室までやって来て、俺たちに向かって「診察室へどうぞ」と言い、自分は診察室以外のどこかへ消えた。

辻岡の父親は、小柄で中肉、昔ながらの白衣を着た優しそうなお爺ちゃんだった。俺たちは辻岡先生に、それぞれ自分の名前や身分を名乗った。

「息子がまた何かやらかしたかね?」

辻岡先生はゆったりした口調で言う。

「いえ、そういうわけでは……」

那智は何から話せばいいのか迷っているようなので、俺が横から口を出した。

「息子さんに『俺の実家へ行け』と言われたのでここまで来ました」

ここへ来た理由をそのまま伝えた。

「息子は実家へ行って何をしろと?」

「さあ。ただ実家へ行けと言われただけなので。何か心当たりはないですか?」

辻岡先生は表情を少しも変えず、ほんの数秒、俺たちのことを黙ったまま見つめていたが、おもむろに立ち上がると、

「ついてきなさい」

と言って診察室を後にした。言われた通り彼の後を追う。その外見からは想像もつかないほどシャキシャキとした大股早歩きだった。

「すぐ戻る」

と立ち止まることなく受付の女性に声をかけ、出入り口の自動ドアをくぐる。俺たちも軽く会釈をして、受付前を通り過ぎた。

裏へ回ると玄関があった。クリニックの裏が自宅になっているらしい。玄関ドアは昔ながらの引き戸で、扉の上部中央に、辻岡と書かれた立派な表札が掛かっていた。

客間に案内され待っていると、辻岡先生は奥さんらしき女性と一緒に戻ってきた。そしてもう一人、小学校中学年から高学年ぐらいの少女も一緒だった。

少女は奥さんらしき女性に肩を抱かれるようにして部屋に入ってきた。ストレートの黒髪は肩甲骨を覆うぐらいの長さで、ロゴの入ったアイボリーの長袖シャツに、スモークブルーの丈が長めのキュロットスカートを履いていた。酷く痩せた身体を小さく震わせて、怯えているように見える。