ロシアンルーレットⅣ【クライムサスペンス】

今日は俺が車を出すと那智に申し出た。電話では、飛行機の時間に合わせて朝7時に迎えに行くと伝えたが、5時には那智のアパートに着いていた。

そうだよ、どうでもいいと言いながら気になったんだよ。はたして本当に、那智が初音に食事を届けるだけで帰ってくるのかが。

案の定、駐車場に那智の赤いハッチバックはない。さして驚きもなかった。

俺は自分の車を道路の片隅に停めて静かに待った。

6時過ぎ、結構な勢いで赤いハッチバックが駐車場へ入っていった。その動きを見れば、運転手がかなり急いでいるのがわかる。那智は、お泊りしたことが俺にバレないように必死で偽装工作するつもりのようだ。無駄なのに。

那智がアパートの階段まで駆けて来たところで、車を降りた。ドアを閉めれば、ばん、と音が鳴った。いつもよりそっと閉めたが、早朝の静けさの中、それは響き渡った。

那智が反射的に立ち止まる。そして、ゆるゆるとこちらに視線をやった。俺と目が合うと、まるで反抗期のガキみたいに、不満げな表情になって全身脱力し、「いつから居るの?」と言った。那智くんともあろうおかたが、気の利いた言い訳も思いつかないらしい。

「ちょっと早く来すぎちゃって」

てへっ、と可愛く微笑んでみた。那智はぷいと顔を逸らし、

「皆人くんが思ってるようなことはなんもないから」

階段を上り始めながら言った。すかさず俺、後を追う。

「一晩一緒に居て? いやいや、そんなはずないだろ」

「誰と一緒に居たと思ってんの?」

「東郷初音だろ?」

「うん」

「ほらね!」

「何が『ほらね』?」

「初音は若い女性だろ。若い男女が一晩一緒に過ごせば、やることなんて一つしかないでしょ」

「皆人くんと一緒にすんなよ」

「してねーよ。俺は既婚者だからね。でも那智くんは独身で、しかも今、彼女もいねえじゃん」

「皆人くんが俺のことどう思ってんのか知んねーけど……」

「事件関係者と寝る男だと思ってるよ」

那智は部屋の前で立ち止まった。そして俺の方を振り返り、

「喧嘩売ってる?」

と不貞腐れた顔で言った。けど本気で怒ってはいないようだ。

「いいえ、那智くんとはこれからも仲良くしたいです」

今から一緒に福岡行かなきゃなんねーし。

「だったらこの話は終了」

言って那智は解錠し扉を開けた。開けたまま扉を背中で支え、俺をじっと見る。部屋に入れてくれる気みたいだ。

「いい、煙草吸いたいからここで待ってるよ。中で吸うと怒られるだろ? まだ1時間近くあるから、ゆっくり支度してこいよ」

服も昨日と同じだし、着替えなきゃだろ。

「鍵開けとくから、入りたきゃ勝手に入って。俺シャワーしたいし」

那智はそう言って自分だけ部屋の中へ消えた。