「犯人は警察内部の人間かもしんねぇのか……」
那智の車で移動しながら、俺が独り言のようにこぼすと、「だから……」と那智が口を開く。
「窪田さんがわざわざ俺に依頼してきたのか」
なるほどね。窪田はよっぽど那智のことを信用していて、そしてお気に入りなんだな。窪田は俺みたいな可愛い系の男が好みだからな。
俺たちは、取りあえず谷口さんと会って話すべきだろう、ということになり、署に向かっているところだった。
「多分、倉橋ってやつが引っ付き虫みたいにくっついてるけど、どうする? 那智くん」
「向こうの出方次第かな。まだ何も掴んでないふりをするか……鎌をかけてみるか」
言って那智はいたずらっぽく微笑んだ。
署に到着してすぐ谷口さんに電話した。『谷口』といつものごとくぶっきらぼうに電話に出た谷口さんに署に着いたことを伝えた。
組対課まで行くと伝えたが、「いい、俺が行く」と言うので駐車場で待つ。俺が煙草を一本くわえると、「皆人くん、外で」と那智に言われ車を降りた。くわえた煙草に火をつける。ああ、気管支と肺が心地いい。
谷口さんがジャケットをはおりながら署から出てくるのが見えた。辺りを見回し俺と目が合うと、ものすごい形相でこちらに向かって来た。
「無事だったか」
俺のすぐ目の前まで来ると、谷口さんは控えめのボリュームで言った。谷口さんは谷口さんで何か掴んだのかもしれない。
「谷口さん、一人?」
「倉橋は今、うんこしてる」
思わず俺が顔をしかめると、人間なんだからうんこぐらいするだろ、と谷口さん。俺はあんまり職場でうんこしないけど、と思うが黙っておく。また一言多いって頭どつかれるのがオチだから。
「倉橋ってやつ、信用できるんですか?」
「なにが?」
谷口さんも自分の煙草をくわえてジッポライターで火をつけた。
「だって、こんな時期に突然異動とか、なんか胡散臭くないですか?」
「そうか? 異動なんてよくあることだろ。なあ、那智? 皆人のお守りさせて悪いな」
谷口さんが視線を俺から俺の背後に移す。振り返れば、いつの間にか那智が車のリアドアにもたれて静かに立っていた。
「いえ、皆人くんも皆人くんなりに頑張っています」
と那智。全然褒めてない。
「倉橋さんは、組対課に配属になる前はどこに?」
那智が谷口さんに訊く。
「公安って言ってたな」
「ますます怪しい」
俺が呟くと「何が怪しいんですか?」と俺たち以外の声が聞こえてきた。車を挟んで向こう側から、倉橋がひょっこり顔を出していた。倉橋は運転席の窓から中を覗き込み、「クラシカルでカッコいい車ですね」と嬉しそうに言う。無邪気なその笑顔の裏には、恐らくサイコパスな狂気を隠し持っている。騙されてはいけない。
「わかります? 俺も気に入ってます」
と那智。確か君、『車と女は乗れりゃいい』って言ってなかったっけ? そして那智は、
「ところで、倉橋さんは組対課の前はどこにいたんですか?」
涼しい顔で白々しく尋ねた。
「詳しいことは言えないんですけど、実は公安にいたんです」
「そうなんですね。どうしてまた組対課に?」
「僕が希望したんです。組対課にデキる刑事さんが居るって聞いて、どうしても一緒に働きたくて」
「悪いけど、今俺、組対課じゃないんだよね」
すかさず俺が口を挟むと、那智は冷ややかに俺を見て、
「今の、誰が聞いても皆人くんじゃなくて谷口さんのことでしょ」
低い声で言った。
「どうしたんです? こんなところでコソコソと」
また別の人物が話に割り込んできた。見れば、俺の想像を裏切ることなく、メガネくんとくたびれたオジサンだ。容疑者全員集合かよ。
「なんだよ、コソコソって。相変わらず感じわりぃな。俺と谷口さんは長い付き合いだからね。用事がなくたって、こうやって時々おしゃべりするんだよ」
ねー、と俺が谷口さんに同意を求めれば、照れくさそうに目を泳がせ「うん……まあ……」と俺の方は見ずにボソリと言う。
「そう突っかからないでよ。有坂さんの容疑はもう晴れたことだし。僕も最初から有坂さんのわけないって思ってたんですよね。でもほら、仕事だから、仕方なく、ね。わかるでしょ?」
「わかんねーよ。冤罪なんか絶対ダメだから、俺だったら慎重になるね」
「それはご立派」
メガネくんは心のこもっていない棒読みで言った。いちいち腹の立つ。
「ところで、そちらの方は?」
くたびれたオジサンが急に口を開いた。目線は那智を指している。オジサンの声、初めて聞いたかも。
「そういえば、初対面ですよね? 配属はどちらですか?」
メガネくんは今ようやく、那智の存在が気になりだしたようだ。自分にしか興味のないナルシスト、捜査官には絶対向いていない。
俺は待っていましたとばかりに、得意気に言ってやった。
「あれ? 君たち知らない? 同じ捜査一課のはずだけど? ねえ、那智くん」
たちまち二人の顔から表情が消える。
「芹沢……那智?」
那智のフルネームを口にしたのはオジサンの方だった。
「誰ですか? それ」
メガネくんが訝しげにオジサンを見て問う。
「誰って……説明すんのは難しいな」
オジサンは困った顔をして頭をポリポリ掻いた。
「あなた、誰なんですか?」
メガネくんはじれったそうに、今度は那智に向かって直接訊いた。
「あんたは俺のことなんか知らなくていいし、むしろ知ってほしくないな」
那智くんは満面の笑顔で返した。那智くん、グッジョブ!
那智の車で移動しながら、俺が独り言のようにこぼすと、「だから……」と那智が口を開く。
「窪田さんがわざわざ俺に依頼してきたのか」
なるほどね。窪田はよっぽど那智のことを信用していて、そしてお気に入りなんだな。窪田は俺みたいな可愛い系の男が好みだからな。
俺たちは、取りあえず谷口さんと会って話すべきだろう、ということになり、署に向かっているところだった。
「多分、倉橋ってやつが引っ付き虫みたいにくっついてるけど、どうする? 那智くん」
「向こうの出方次第かな。まだ何も掴んでないふりをするか……鎌をかけてみるか」
言って那智はいたずらっぽく微笑んだ。
署に到着してすぐ谷口さんに電話した。『谷口』といつものごとくぶっきらぼうに電話に出た谷口さんに署に着いたことを伝えた。
組対課まで行くと伝えたが、「いい、俺が行く」と言うので駐車場で待つ。俺が煙草を一本くわえると、「皆人くん、外で」と那智に言われ車を降りた。くわえた煙草に火をつける。ああ、気管支と肺が心地いい。
谷口さんがジャケットをはおりながら署から出てくるのが見えた。辺りを見回し俺と目が合うと、ものすごい形相でこちらに向かって来た。
「無事だったか」
俺のすぐ目の前まで来ると、谷口さんは控えめのボリュームで言った。谷口さんは谷口さんで何か掴んだのかもしれない。
「谷口さん、一人?」
「倉橋は今、うんこしてる」
思わず俺が顔をしかめると、人間なんだからうんこぐらいするだろ、と谷口さん。俺はあんまり職場でうんこしないけど、と思うが黙っておく。また一言多いって頭どつかれるのがオチだから。
「倉橋ってやつ、信用できるんですか?」
「なにが?」
谷口さんも自分の煙草をくわえてジッポライターで火をつけた。
「だって、こんな時期に突然異動とか、なんか胡散臭くないですか?」
「そうか? 異動なんてよくあることだろ。なあ、那智? 皆人のお守りさせて悪いな」
谷口さんが視線を俺から俺の背後に移す。振り返れば、いつの間にか那智が車のリアドアにもたれて静かに立っていた。
「いえ、皆人くんも皆人くんなりに頑張っています」
と那智。全然褒めてない。
「倉橋さんは、組対課に配属になる前はどこに?」
那智が谷口さんに訊く。
「公安って言ってたな」
「ますます怪しい」
俺が呟くと「何が怪しいんですか?」と俺たち以外の声が聞こえてきた。車を挟んで向こう側から、倉橋がひょっこり顔を出していた。倉橋は運転席の窓から中を覗き込み、「クラシカルでカッコいい車ですね」と嬉しそうに言う。無邪気なその笑顔の裏には、恐らくサイコパスな狂気を隠し持っている。騙されてはいけない。
「わかります? 俺も気に入ってます」
と那智。確か君、『車と女は乗れりゃいい』って言ってなかったっけ? そして那智は、
「ところで、倉橋さんは組対課の前はどこにいたんですか?」
涼しい顔で白々しく尋ねた。
「詳しいことは言えないんですけど、実は公安にいたんです」
「そうなんですね。どうしてまた組対課に?」
「僕が希望したんです。組対課にデキる刑事さんが居るって聞いて、どうしても一緒に働きたくて」
「悪いけど、今俺、組対課じゃないんだよね」
すかさず俺が口を挟むと、那智は冷ややかに俺を見て、
「今の、誰が聞いても皆人くんじゃなくて谷口さんのことでしょ」
低い声で言った。
「どうしたんです? こんなところでコソコソと」
また別の人物が話に割り込んできた。見れば、俺の想像を裏切ることなく、メガネくんとくたびれたオジサンだ。容疑者全員集合かよ。
「なんだよ、コソコソって。相変わらず感じわりぃな。俺と谷口さんは長い付き合いだからね。用事がなくたって、こうやって時々おしゃべりするんだよ」
ねー、と俺が谷口さんに同意を求めれば、照れくさそうに目を泳がせ「うん……まあ……」と俺の方は見ずにボソリと言う。
「そう突っかからないでよ。有坂さんの容疑はもう晴れたことだし。僕も最初から有坂さんのわけないって思ってたんですよね。でもほら、仕事だから、仕方なく、ね。わかるでしょ?」
「わかんねーよ。冤罪なんか絶対ダメだから、俺だったら慎重になるね」
「それはご立派」
メガネくんは心のこもっていない棒読みで言った。いちいち腹の立つ。
「ところで、そちらの方は?」
くたびれたオジサンが急に口を開いた。目線は那智を指している。オジサンの声、初めて聞いたかも。
「そういえば、初対面ですよね? 配属はどちらですか?」
メガネくんは今ようやく、那智の存在が気になりだしたようだ。自分にしか興味のないナルシスト、捜査官には絶対向いていない。
俺は待っていましたとばかりに、得意気に言ってやった。
「あれ? 君たち知らない? 同じ捜査一課のはずだけど? ねえ、那智くん」
たちまち二人の顔から表情が消える。
「芹沢……那智?」
那智のフルネームを口にしたのはオジサンの方だった。
「誰ですか? それ」
メガネくんが訝しげにオジサンを見て問う。
「誰って……説明すんのは難しいな」
オジサンは困った顔をして頭をポリポリ掻いた。
「あなた、誰なんですか?」
メガネくんはじれったそうに、今度は那智に向かって直接訊いた。
「あんたは俺のことなんか知らなくていいし、むしろ知ってほしくないな」
那智くんは満面の笑顔で返した。那智くん、グッジョブ!



