「警視庁、組織犯罪対策課、有坂皆人(みなと)ねー、ふぅーん」

男は俺の身分証を開いた状態で右手に持ち、そこに書いてある文字を読み上げた。


「返せよ」

「『返してください』でしょ?」

男は軽い口調で言って、悪戯っぽく笑う。


何コイツ? まじ、何なのコイツ?


「冗談。はい」

身分証を俺に向かって差し出しながら、男は歩み寄る。無意識に俺、右足を後ろに引いて、いつでも逃げ出せる体勢を整えていた。


目の前に立った男は、

「落ちてたよ。大事なもんでしょ? 気を付けようよ、ね?」

まるで子どもに言い聞かせるように言って、愛想よく笑った。


無言でそれを引っ手繰るように受け取れば、俺から視線を外すことなくゆっくりと後方へ後ずさる。そうしながら、銃の形を作った右手を俺に向かって突き出した。片目を細めて、照準を合わせる真似をする。


「痴漢、良くない」

子どもみたいな片言を口にして、

「ばぁーん」

肘を折って、右人差し指の先を天へと向けた。


そうして、薄っすら笑みを浮かべたまま、ようやく踵を返して俺に背を向けた。