愛させろよ。

袖から出てきた福田先輩は、右手を体の前に回して大げさな礼をした。

指揮棒は持っていない。

福田先輩は、指揮台にも上がらず、客席を向いたままドラムの方にすっと手を上げた。

音楽は始まった。

先輩は指揮している。

でも、先輩の視線の先にいるのは俺たちではない。

お客さんたちだ。

先輩は、入ってくる金管に背中を向けたまま手だけで合図を出した。

俺たち木管はまだ吹かない。

目は福田先輩を見つめ、体は雰囲気を感じている。

客席の興奮が充分高まったと思った瞬間、先輩は指揮台にとびのった。

さあ、始まりだ。