「男の人は、わたしがちょっと笑ってあげるだけですごく優しくしてくれたわ。

そうやって逃げて逃げて、藍を妊娠しているとわかったとき、わたしは呆然としたの。

唯一の発散手段を失ったから。

そんなとき、わたしはふとクラリネットの存在に気づいたの。

少し吹いただけで、わたしは何かがほとばしるのを感じたわ。

わたしの求めていたものが、お皿に乗って出てきたような気分だった。

それからわたしは練習して練習した。

世間はわたしのクラリネットを認めてくれた。

それで、今こうなってるってわけ」

藍さんは話し終えると、照れたように笑った。

「ああ、なんか長くなっちゃったわね。ごめんね」