瞬間、俺の頭の中に桐谷先輩の声が響きわたった。

『ねえ相原、お願いがあるの』

お願い? お願いって……



………………はっ



俺は、堤先輩を強く見つめた。

先輩は、俺と桐谷先輩を不安げに見比べた。

俺は小さくうなずいてみせた。

その瞬間、堤先輩の目は俺に据えられた。

すっと周りの楽器が遠のいた。

指揮棒が、まっすぐ俺に向けられた。