伊藤先輩を見送ってから、桐谷先輩は言った。

「ほら、スイッチ入ってるでしょう。もう着席するわよ」

俺たちが席についた頃、他の人たちもわらわらと座り始めた。

俺たちの前の列に座った茉莉花先輩が、振り向いて笑った。

「本気でやってね」

「はい」

全員が席につくと、すっと話し声が引き、静寂が訪れた。

伊藤先輩の声が響きわたった。

「第30回谷張高校吹奏楽部定期演奏会を開演いたします」