桐谷先輩は右手首の腕時計に目をやり、言った。

「もう合奏は終わったはず。戻ろう」

「はい」

「最後にひとつ。前も言ったけど、手に怪我は絶対しちゃだめよ」

「はい」

「転んでも手はつかないくらいの覚悟をして」

「え、顔からいけってことですか」

「手を壊すよりは、ましね」

「まじっすか……」

「本気よ。ほら、もう行かなきゃ伊藤先輩に怒られちゃう」

先輩は、俺を促して歩き始めた。