ギャルとメガブス

「ミナコは引っ越すの、嫌?」


私は首を横に振った。

私は……母がそう決めたのならば、それに従う。


「お母さん。横浜に引っ越したら、お母さんも、今よりラクになる?」


母は笑った。


「そうね。きっと、ラクになるわ。おばあちゃんもいるしね」


だったら、私に文句はない。


「良いよ。ミナコ、おばあちゃん大好きだもん」


母は頷いた。

そして、急に俯いた。

慌てたようにその顔に添えた、母の筋張った細い指の間から、涙の粒が畳の上に落ちるのが見えた。

私はそれを見た瞬間、思わず母に走り寄って、その痩せた肩を抱きしめたい衝動に駆られたけれど、それを押し殺して、くるりと母に背中を向けた。


「いってきます」


小さく呟いて、私は家を出た。

泣き出しそうな自分を堪えて顔を上げると、隣の庭の桜の葉が、やたらと鮮やかな緑色に見えた。