ある日、自分の病室で新聞を読んでいた私の元へ、看護婦がやって来た。


「面会ですよ」


面会と言われ、私は一瞬コーイチの顔が頭に浮かんだ。

鼓動が早くなる。


……いや、コーイチが来るはずがない。

あいつは、そういう奴ではない。

一度切り捨てた、使えない人間のことなんて、もうそれっきりだろう。


だが、私は全く悲しいと思わなかった。

むしろ、ほっとしていた。


何故ならば、「コーイチ」という単語が思い浮かんだ瞬間、嬉しいという感情が沸かなかったためだ。

むしろ、一瞬にして頭に血が上った。

良い傾向だ。

もし、コーイチの名を思い浮べた時、込み上げてきたのが嬉しさだったら、それこそ絶望的。


あんな最悪な男のことなど、さっさと忘れるに限る。

やっとのことで、コーイチを嫌いになれた。

これまでずっと果たせなかった希望が、漸く実現したのだ。

喜ばしいことではないだろうか。