ギャルとメガブス

ライトが揺れて、二人の人影が近付いてくるのが分かった。

二人とも、警備員の制服を着ている。どちらも中年の男性だ。


片方の警備員が、無骨な手で私の手首を掴む。


「あんた、日本語喋れないのか!?」

「いえ、あのっ……喋れます」


やっとのことで言葉が出てきた。

状況が良くなったわけではないが、自分自身の言葉を聞いて、私は少しだけ落ち着きを取り戻す。


「近所の人から、夜中に微かにピアノの音が聞こえるって通報が何度も入っていたんだが、あんただったのか?」

「……」

「とりあえず、ちょっと来なさい」


警備員は、私の手首を掴む力を緩めぬまま、乱暴に私の手を引いた。

音楽室から出る間際、私は慌てて周囲を見回した。


俊くんの姿は、何処にもなかった。