ギャルとメガブス

「俊くんは、本当に音楽が好きなんだね」


ある時、私は俊くんに言った。

俊くんは、ちょっと困ったような顔をして、視線を逸らした。


「うん……多分、好きだったんだと思うんだ」

「今は、違うの?」


細い足の先で床をカツカツと叩き、俊くんはグランドピアノに右手を置いた。


「分かんないや」

「どうして? 嫌いだったら、そんなに色んなこと、知らないよ」

「嫌いだって、勉強すれば頭に入るよ」

「勉強しているの?」


俊くんは頷いた。


「僕ね、毎日午前中は、この小学校にいないんだ」

「どうして?」

「音楽学校に通っているから」


私は酷くドキドキしていた。

俊くんの生活に触れてしまう。

見てはいけないものを見てしまう、そんな心境だった。