ギャルとメガブス

そんなわけで、私は少年の名前しか知らなかった。



私は俊くんと出会って以降、以前よりも更に頻繁に、放課後になると音楽室に忍び込んだ。

グランドピアノの蓋を開き、紅色のびろうど生地の鍵盤掛けを捲る。

それをきちんと畳んで、譜代の横に置く。

楽譜を出して、セットして……。



その一連の行程が、まるで俊くんを呼び出すための儀式みたいに、私は毎回厳かな気持ちになった。



準備を整え、私がピアノを奏で始めると、いつの間にか俊くんがやって来て、私の演奏にじっと聞き入る。

演奏が一曲終わる毎に、俊くんは私の演奏を批評し、更にその曲や作曲家についてを説明してくれた。



何て詳しいのだろう。