僕と恵ちゃん以外はみんな帰った調理室。

さっきから表情を動かさない恵ちゃんに僕は内心おどおどしていた。

(わ、別れを切り出されちゃうのかなぁ)

涙がじわりと滲みそうになって、慌てて下を向いた。

「……桜野くん」

「は、はい!」

自分で自分が情けないが、後輩の一挙一動にびくびくしていまう。

仕方ないよね、だって大好きだから!

下を向いたまま、顔を上げられないでいると、パシャッと何やら今の場面に相応しくない音が聴こえた。

頑なに曲がっていた首が素直にのびる。

そこには、僕にケータイを向けた恵ちゃんがいた。

「かっわいい〜〜!やっぱ、桜野くんは世界一可愛いよぉ」

僕の大好きな満面の笑みを浮かべた恵ちゃんは、パシャパシャと僕を撮り続ける。

呆然としながらも、なんとか尋ねた。

「恵ちゃん……僕、気持ち悪くないの?」

「えー?全然?てか超可愛い!さっきから悶えるの必死に堪えてたんだもん。」

め、恵ちゃんの可愛いの基準が分からない。

なんかほっとしたけど、それと同時に拍子抜け。

問いたい、僕が坊主になった意味。

「えへへ、桜野くん、大好き‼世界で一番すきー」

あー、でもなんか、もうどうでもいいかもしれない。

恵ちゃんが可愛いって言ってくれるなら。

「でも、どうして坊主にしようと思ったの?」

不思議そうに尋ねてくる恵ちゃんに、僕はにこっとした。

「うーん、気分かな?」

どんな気分だ、と心の中で自分にツッコミを入れる。

「ふーん、変な気分だったんだね」

「うん、そうなんだ」

やっぱ、一番可愛いのは恵ちゃんだ。