佐藤くんに、キス、された。

ほんの少し前のことなのに、まだ頭が追いついていなかった。佐藤くんを待つ間、知らない男の人に浴衣を脱がされかけ、頬にキス…いや、私はあんなのをキスなんて呼ばない。頬を舐められた。涙が出て、助けを呼ばなきゃと思っていても声が出なかった。怖くて、怖くて。必死の思いで出した声は、彼の名前を呼んでいた。

目をつむっていたから、なにが起こっていたかは私には分からない。男の人達の苦しそうなうめき声、殴る音や蹴る音。そんな音だけは聞こえた。佐藤くんがやったのかな、あんなに温厚な人なのに、なんて思ってもいたけれど、きっと彼には私の知らない顔がまだあるだけ、きっとそう。と無理やり自分を納得させた。

佐藤くんは、どんな思いで私にキスをしたのだろうか。初めて異性とキスをした。もちろん恋人なんて生まれてこのかた出来たことのない私は、そんな行為はドラマや少女漫画の中だけの話だと思っていた。まさか、自分が。