サチちゃんを先程とは反対方向のベンチに座らせた。サチちゃんは俯いていた。

「…ごめん。僕がもっと早く着いてれば…。」

「佐藤くんは、悪くないよ。」

「何があったか、聞かせてくれる?」

サチちゃんは指先を膝の上で弄びながら、ゆっくり、ポツリポツリと話だした。

「男の人が来て、遊ばないって、言われて。待っている人がいるから、嫌って言ったの。でも聞いてもらえなくて、手、掴まれて。それで、森の中に引っ張られて、その、浴衣、脱がせられそうになって。それで…。」

そこまで言いかけて、サチちゃんは言葉を止めた。

「…それで?」

「僕」はサチちゃんに聞いた。

「頬に、キス、されて、」

サチちゃんの声は酷く小さくなっていた。あんな男に、キス、されたなんて。

僕はサチちゃんにハンカチを手渡し、頭を撫でた。少しだけ、サチちゃんの震えは治まったようだ。

「…キスは、頬でも絶対に、好きな人とするって、決めてたの。」

「…うん。」

「なんで、あんな人達に…っ、私、いやだよ…。」

顔を上げたサチちゃんの頬には透明な涙が滴り落ちていた。

僕はその時、自分が何をしたのか、しっかりと考えることが出来なかった。気付いた時にはもう、僕の唇は。サチちゃんのそれと重なってた。