十代前半の若い頃は別にそれでいいが、彼は今20歳を越えている。流石に常識を弁えていない者が、一国を背負うのは危険すぎる。現に、我儘を言えば周囲が言うことを聞いてくれるのだから。
公子でも、我儘は通じない。
今からでも、そのことを教えていこうとルークは考えているという。だから、協力して欲しい。
それが、彼の本音。
ルークは、ミシェルの将来を心配している。それは彼の守護者だからというわけではなく、母国の未来を心配して。ルークの告白に、珍しくシードが動揺する。だからといって、相手に情を掛けるわけにはいかない。
シードもまた、国を背負っているから。
「何をしているんだ」
彼等の気持ちを理解していないのが、ミシェル。なかなか手合わせをしないことに苛立ちを覚えたのか、辛辣な言葉を繰り返す。別に、辛辣な言葉だけならいい。ミシェルの悪いところは、感情が昂ぶると暴言が混じり出すのだ。彼の暴言に、シードとルーク以外が顔を顰める。
「さて、はじめようか」
「負けは許さん」
「告白を聞いても……か」
シードは抜刀すると、剣先をルークの鼻先に向ける。これがシードの答え。ルークは最初から交渉が決裂することをわかっていたのか、反論の言葉を言わずシードの剣を己の剣で弾いた。
これが、手合わせの合図と化す。やっと手合わせがはじまると、ミシェルが手を叩き喜びはじめる。彼の声は、張り詰めた緊張感を悪い意味で緩めてしまう。また、非常に耳障りだ。
「ボコボコにしろ」
拳を突き上げ、ルークに命令を出す。すると「ボコボコ」という単語を使い飽きたのか、途中で単語を返る。
「ぶっ殺せ」
彼が発した言葉に、誰もが耳を疑う。特にルークは、主人の暴言に頭痛を覚えた。一国の公子が「ぶっ殺せ」とは、何ともはしたない。性格面の修正の他に、言葉遣いも正さないといけない。
「止めるか」と、シードが呟く。表情からルークの心情を読み取ったのだろう、少しだけ情を掛ける。だが、ルークは彼の情を受け入れない。だからといって、ミシェルの命令を受け入れたわけではない。ただ、シードという人物と戦いたいという気持ちを持っていたから。


