「やあ、ルーク」
ミシェルの声音にシードと新人隊員三人は一斉にミシェルに視線を向けると、表情を強張らせる。
ルークの登場に、周囲に緊張感が走る。
人々が漂わせている緊張感を感じ取っていないのが、ミシェル。彼はルークに対し満面の笑みを作ると「頑張れ」と励ましの言葉を掛けるが、一方のルークは冷ややかな表情を作っていた。
守護者といっても、名目上の役割。
感情が伴っていないルークの態度に、シードは自身のライバルである剣士の本音を見出す。
「冷たいね」
「これが普通です」
「まあ、いいか。お前に命令だ。あの親衛隊の隊長って奴をボコボコにしろ。その方が面白い」
「ボコボコ」とは、何とも幼稚な言い方か。ミシェルの後方に控えている男は利き手を額に当てると、何度も頭を振る。
相変わらず、無表情を続けるルーク。しかし、相手は自身の主人。ルークはミシェルに跪くと、命令を受け入れた。
「……勿体無い」
本音を囁いたのは、シードだった。だが吹き抜ける風に声音はかき消され、唯一彼の言葉を耳にしたのはエイルだけだった。
馬鹿な主人に仕える、優秀な守護者。
王道小説に登場しそうな主従関係。それが目の前に存在するのだから、実に現実は面白い。
だからといって、笑えるわけがない。
どういう経緯(いきさつ)で、ルークがミシェルの守護者になったというのか。ふと、彼の生き方に興味が湧いてくる。
「エイル」
「は、はい」
エイルの考えを見抜いたのか、シードの鋭い言葉が彼の思考を止める。だが、シードはエイルの思考を見抜いたわけではない。彼がエイルの名前を呼んだのは、約束事を守れという念押しだ。
シードとミシェルが手合わせする場所――それは、親衛隊訓練所。当初ミシェルは、城の中庭で手合わせをしようと提案していたが、流石に中庭での手合わせするのは難しい。狭いというわけではなく、庭師が丹精込めて手入れをしている植物が剣技の邪魔になってしまうからだ。


