ロスト・クロニクル~後編~


 ラルフがクローディアを訪れ、水晶の発掘場所に再就職しました。と、クリスティア宛に手紙をしたためないといけない。ラルフのことだから、以前働いていた場所をクビになったとクリスティに伝えないないだろう。だから、エイルが代わりにラルフの居場所を伝えないといけない。

 彼の交友関係は思った以上に狭く、真の意味で友と呼べるのはエイルしかいないので他の者を頼り就職先を斡旋して貰うというのは有り得ないし、もし誰かに頼ったとしても全員が拒絶反応を取る。それに自分を否定しないマリサを気に入っているので、途中放棄は考え難い。

(まあ、頑張れ)

 エイルが心の中で声援を送る相手は、自分を認めてくれているマリサに夢中の様子。だが、借金返済の為に真面目に働くのはいい心掛け。その中に特別な感情が見え隠れしようが、エイルにとっては関係ない。優先しないといけないのは借金返済で、それがクリスティへの信頼に繋がる。

 一通りのラルフの紹介を終えたベーゼルは、部下達に発掘場所に戻り仕事を再開するように伝える。ベーゼルの言葉に全員は低音の声音で返事を返すと、それぞれの歩調で仕事場へ戻って行った。

「じゃあ、後は頼む」

「わかったわ」

「何かあったら、すぐに報告だ」

「わかっているわ」

「それでは、失礼します」

 娘に声を掛けた後、エイルに向かい頭を垂れるベーゼル。エイルは彼の心温まる対応に感謝するかのように爽やかな笑顔を作ると、ラルフをビシバシと容赦なく鍛えて欲しいと頼む。

 エイルの頼みにベーゼルは「承知しました」と真面目な口調で返事を返すが、彼の口許が怪しく緩んでいく。どうやらエイルが言わなくても、ラルフを徹底的に鍛え上げるつもりのようだ。そして再度ベーゼルは頭を垂れると、頭を上げると同時に踵を返し仕事場へ向かった。

 新しい職場で人類滅亡を齎す実験や研究はできないので、マルガリータ二世の誕生は考え難い。それに真面目な人物が多く集まる職場なので、もしラルフが怪しい行動を取っていたら彼等の容赦ない鉄拳攻撃が待っているだろうが、それ以前にマリサに何かを言って貰った方が早い。

 エイルは手招きしマリサを呼び寄せると、小声でラルフのメルダースでの悪行と莫大な借金について事細かに語っていく。最初は「冗談」と思いつつエイルの話を聞いているマリサであったが、真剣に語っているエイルの表情から語られる内容が全て真実だと知り驚愕する。