周囲の反応と異なり、マリサはラルフに優しい言葉を掛け続ける。メルダースやクビになってしまった仕事場所でも、ラルフはいい印象を抱かれることはなかった。それだというのに、新しい仕事場で出会ったマリサはラルフに普通に接し拒絶反応を見せることはない。
信じられないというか有り得ない状況に、エイルは唖然となってしまう。いや、唖然となっていたのはエイルだけではなく、ラルフを乱暴に扱っていたベーゼルも動揺を隠し切れない。
また、ラルフも何処か落ち着かない様子だった。そして久し振りに感じることができた人の温もりが身体の奥底まで染み渡ったのか、マリサの優しさに感謝するかのように拝みだす。
「エ、エイル」
「女神はお前を見捨てなかった」
「嬉しいよ」
「で、仕事は?」
「頑張れそう」
「最初、嫌がっていた癖に」
「あれはあれだよ」
「現金だ」
純粋無垢とも呼べるマリサと出会ったことにより、水晶の採掘場所で働くことを嫌がっていたラルフの心情に変化が生じる。自分を毛嫌いしてこない貴重な人物と共に働けることを幸福と感じ取っているのか、恐怖と絶望感に彩られていたラルフの表情に明かりが灯る。
「いいだろう」
「何が?」
「女の子と一緒に仕事だ」
「好きなのか?」
「な、何を言うんだ」
「図星か」
ラルフの見事ともいえる反応に、エイルは彼がマリサに好意に似た感情を抱いていると気付く。彼も年頃の「男の子」なので異性に特別な感情を抱くのは普通なので問題はないのだが、いかんせん彼女の父親が父親。ラルフの心情を知ったら、あの太い腕で絞殺される確立が高い。
だが、悪友の甘酸っぱい青春の日々を壊すほどエイルは悪魔ではない。これが上手くいくかどうかわからないが、何かひとつのことに集中していればラルフの暴走を防げることを知っているので、敢えて黙っておく。そして、借金が全て換算されることを願うのだった。


