ロスト・クロニクル~後編~


 シード曰く、意味合いなど全くない。先程エイルに言った通り、相手が公子だから引き受けた。

 それに新人達の剣の腕前を高めて欲しいので、実力がある者同士の手合わせを見て何かを学んで欲しいという。

 要は常に努力を続け、自身の能力を高めてほしいのだ。剣の腕前という点だけを上げれば、隊長のシードと副隊長のリデルは最強と呼べる。だからといって、二人で全てを解決できるほど世の中は甘くない。

 特に新人三人は、未熟すぎる。そのような彼等を鍛えるには、今回の手合わせは最高の教材だ。

 利害が一致した。

 簡単に言えば、そのようなものだ。

「隊長」

「何だ」

「勝って下さい」

「そうだな。勝てればいいが……」

 其処で一度言葉を止めると、思い詰めた表情を作る。本心では、ルークに勝利したいと思っている。しかし支配を受けている立場であるクローディアのことを思うと、ルークに勝利してはいけない。

 一番の原因は、実年齢と精神年齢が一致しないミシェル。間違ってシードが勝利してしまった場合、ミシェルが激怒するのは間違いない。彼は常に自分中心で物事を考え、自分の思い通りに物事が運ばないと癇癪を起こす。結果、理不尽な命令を下されてしまうだろう。

「だから、俺は負ける」

「……わかりました」

「相手が……ルーク・ライオネルが、それを許すとは思えない。あの者は、手加減を嫌うからな」

「ですが、今回は……」

 母国の平和を願うのなら、ミシェルに癇癪を起こさせるわけにはいかない。この場合、堅物や頑固と呼ばれる人物の方が扱いやすい。あちらはあちらで厄介な部分を持つが、常識は弁えている。

 しかし、ミシェルに「常識」という言葉を弁えているかどうか怪しい。いや、彼の行動を総合すると常識は持ち合わせていない。

 シードはエイルに裏の事情を話すと、アルフレッドとシンに手合わせを負えた後、この裏の事情を話しておいて欲しいと頼む。そしてミシェルの子供っぽい一面に注意しつつ、任務に当たって欲しいと命令を下す。隊長の命令にエイルは利き手を胸元に当てると、頭を垂れた。