ロスト・クロニクル~後編~


 エイルが指摘するように、ラルフの身形は褒められたものではない。

 兵士達がラルフを「浮浪者・乞食」と表現した通り、彼が着ている服は至る箇所がボロボロに引き千切れ、穴が開いている。また、一体何日身体を洗っていないのか、汗と泥が混じり合い悪臭が漂う。

 一体、ラルフの身に何が起こったというのか。そもそもラルフは有名な研究所に就職し、其処で真面目に働いているとエイルは考えていた。それだというのにラルフは浮浪者の姿でエイルの目の前に現れ、久し振りの再開を喜んでいる。だが、エイルは素直に喜べないのが本音。

 卒業後の彼の経緯を根掘り葉掘り聞き出したいが、現在ラルフに詰め寄るには場所が悪い。それにラルフと再開したのはいいが、彼の今後の処遇をどうすればいいか考えないといけない。

 エイルがラルフの身元を証明したので、無事にクローディアの国境を越えることができるが、彼は文無しなので宿泊場所を確保できない。それなら野宿という方法を取ればいいが、今の季節北国のクローディアで野宿をした場合、凍死の心配はないが確実に風邪をひく。

 ラルフの身を思い邸宅へ連れて行く――というのは、エイルの考えの中に存在していない。理由のひとつは、毎日メイドが綺麗に掃除している屋敷の中に、悪臭を放つラルフを入れたくない。

 ふたつ目の理由は、両親や兄がラルフを見て何を言いどのような反応を見せるかわからないからだ。

 しかし、クローディアを訪れた経験がないラルフ。何の情報も与えずそのままにした場合、何を仕出かすかわかったものではない。最悪、無銭飲食で捕まり再び牢屋の中というもの考えられる。

 そして再びラルフが捕まった時、身元証明で呼び出されるのはクローディアで唯一の知り合いエイル。何度も呼び出されるのは迷惑この上なく、ラルフの首に縄を付けた方がいい。

 エイルがラルフの今後の処遇に付いて考えていると、彼の気持ちを全く察していないラルフが「エイルの家に行きたい」と、我儘を言い出す。今のエイルはラルフの身を心配しているのでこれくらいではメルダースで披露した「黒エイル」を表面に出さないが、次に発した言葉でエイルの表情が一変する。

 ラルフがエイルに言った言葉というのは「貴族の邸宅で美味しい物を食べて、温かい布団で寝たい」というもの。現在自分が置かれている立場がわかっていない図々しさに、エイルの顔が引き攣る。

「それだけか?」

「あと、風呂」

「その前に、手続きだ」