勿論、ラルフが嘘を付くわけがない。彼は常識を逸脱した性格の持ち主だが、このような状況では真面目な性格を前面に出し、尚且つ自分が不利の状況で嘘を付いたらどうなるかは、メルダースで学園長相手に嫌というほど学んでいる。それに、素直にしていれば牢屋から出してくれると確信していた。
しかしラルフの確信に反して、アゼルの動揺は続く。まさかこの不審者の口から「バゼラード」の名前が出てくるとは――アゼルはバゼラードの名前と元親衛隊隊長のフレイを知っている。知っているからこそ、ラルフがその名前を発したことに顔を引き攣らせていた。
「……隊長」
「どうしました?」
顔色の悪いアゼルを心配したかのように、側にいた彼の部下達が声を掛けてくる。その言葉にアゼルは溜息を付いた後、ラルフが発したファミリーネームがどのような意味を持つか話す。
アゼルの話に、部下達は目を丸くする。バゼラードは伯爵の地位を持ち、尚且つ古くから王家に仕え信頼も篤い名門一族。その一族の者と、この浮浪者が親友同士。俄かに信じがたい現実に部下達は牢の中でヘラヘラしているラルフを眺めると、不審者を眺める視線を送った。
「ご足労を願うしかない」
態々、伯爵家の者を――という躊躇いが強いが、ラルフの正体を知らなければ処遇が決められない。それに処分後にバゼラードの者と親友同士だったと判明した場合、全ての者が責任を取らないといけない。部下を大切にしているアルゼにとって、それだけは避けないといけなかった。
アゼルは部下にバゼラード家に赴き、ラルフが言うエイルという人物を連れてきて欲しいと命令する。その時自分の名前を使用していいと付け加えるが、正直それで取り次いでもらえるかどうか怪しい。
だが、バゼラードの者にラルフを確かめてもらわなければ話が進展しない。
命令を受け取った部下達はアゼルに頭を垂れた後、バゼラード家に向かう。その後、とんでもない人物がクローディアに訪れたと、アゼルは溜息と共に肩を竦めラルフを眺めていた。
国境警備兵が、エイルを呼びに来た。
その話を執事から聞いたフレイは自ら対応し、何故エイルを呼びに来たのか尋ねる。まさかバゼラード伯自ら応対するとは思わなかったのだろう、兵士達は緊張の影響で声音は裏返ってしまうが、それでも彼等は自分達の役割を果し、どうしてエイルを呼びに来たのか話していく。


