マルガリータの正体は美しい山百合なのだが、進化の影響で花弁は「どどめ色」に変色し、悪魔が暮している世界で生息している植物――と、兵士の一人がマルガリータを表現する。
「しかし、どうすればいいか……」
「隊長は今、不在だし」
「帰宅は?」
「明日」
「じゃあ、隊長の帰宅まで牢の中に入れておくか。証明書がこれじゃあ……指示を仰がないと」
「そうだな」
流石に兵士達の話を聞いていると、ぶっ飛んだ性格の持ち主のラルフも自分が置かれている状況が悪いことに気付く。その時、自分の身分を証明するのに最適な物を持っていたことを思い出したラルフは、薄汚れたリュックの中から一枚の紙を取り出す。これこそ、世界最高峰と謳われているメルダースの卒業証明書だった。勿論、ラルフの名前入りである。
「これを――」
「何だ」
「メルダースの卒業証明書です」
〈メルダース〉という単語に、兵士達は互いの顔を見合す。彼等とてメルダースの名前を知っており、尚且つ真面目な生徒が在籍しており、更に卒業が難しい学び舎と認識している。
だから、このような人物がメルダースの卒業者というのが信じられず「嘘はいかん」や「何処で盗んだ」と、全く信じてもらえなかった。それどころか、牢の中に入れられてしまう。
「ほ、本当です」
自分はメルダースの卒業者と懸命に訴えていくが、いかんせん発言と態度と、ついでに外見が伴っていない。空しく響き渡るのは鍵が閉められる音。その音を聞いたラルフは、大粒の涙を流す。そして一緒に牢の中に入れられたマルガリータの鉢に抱き付き、この日を過ごす。
翌日。
牢の中で涎を垂らし大の字で寝ているラルフの姿に、仕事を終え戻って来た警備隊長アゼルは顔を引き攣らせていた。過去、何人もの不審者を牢の中に押し込めたか、これほどの人物は一人もいない。
複数の人の気配を感じ取ったラルフは目覚めると、涎を袖口で拭きつつ起き上がると、発した第一声というのが「腹減った」というものだった。この言葉が、アゼルを含め兵士達を脱力させたのは言うまでもない。


