互いに近い距離にいたので、エイルの愚痴はマナの耳に届いていた。彼の愚痴はマナに不利になる内容ではなかったが、エイルの愚痴を間近で聞いてしまうと素直に言葉を受け入れることはできない。それどころか「何故、自分を特別視するのか」という疑問を抱きだす。
普通、これだけのことをしてくれると相手に好意的な印象を抱いていると考えるものだが、それ関連の経験値が少ないマナは別の意味に捉えてしまい、もっと仕事を頑張ると伝えた。
「それ以上の無理は……」
「いえ、大丈夫です」
「いや、そういう意味じゃ……」
話が違う方向へ話が流れていることに気付いたエイルは、話をもとの話題へ戻す。それにマナを呼んだのは、そのような理由ではない。彼女の身辺――特に彼氏の存在が知りたかった。
第一に候補に挙がったのは、菓子のレシピを聞いていた料理人。しかしマナは彼が彼氏ということを否定し、それどころか付き合っている人はいないということをエイルに伝えた。
「そう、良かった」
「エイル様?」
「何て言うか……誰かと付き合っていたら、悔しいというか……ラルフが聞いたら、笑うな」
流石にこの言葉で、エイルが抱いている真情と何を言いたいのかマナはわかってくる。刹那、彼女の顔は新鮮なトマトの色へ変化していき、顔全体から湯気が立ち上るほど暑かった。
はじめての経験にマナの頭は混乱してしまい、同時に真っ白に染まっていく。エイルと視線を合わせることに羞恥心を覚えたのか、俯き必死に羞恥心と戦っていくが逆に感情を煽ってしまう。
「その……迷惑?」
「い、いえ」
「良かった」
「あの……何故……」
「理由?」
「……はい」
彼女にしてみれば、自分より素晴らしい女性は沢山いるのでそのような人物を選んで欲しかった。また、エイルは貴族様なので自分とは身分が違い全く釣り合わない。それだというのに、エイルはマナに対しあのように言ってくる。それが信じられなく、からかっているのかと尋ねた。


