エイルは壁に身を預けると、彼等の会話に聞き耳を立てる。第一の理由は話の内容で、第二の理由は彼等の関係。
現在のエイルの姿をラルフやアルフレッドが目撃したら、腹を抱えて笑っているだろう。それだけ挙動不審で、似合わない。しかしエイルは真剣そのもので、何処かイライラしていた。
彼等が話している内容というのは、料理のレシピの話だ。何か特別な料理を作ろうとしているのか、マナの表情は真剣そのもの。そしてレシピについて語っている料理人も、真剣だった。
レシピを聞き、誰に作るのか――
悶々とした感情は、思考を悪い方向へ持っていく。
その時、過去の約束を思い出す。それはマナと一緒に森へ行き、木の実を拾いに行った話だ。その拾って来た木の実を使い菓子を作るので、それをわけてくれるという約束をしたが、いまだに現実に至っていない。
約束を破られた。
しかしマナの真面目な性格を考えると、彼女は約束を破る人物ではない。何か理由があって菓子を作ることができなかった――と考えるのが普通だが、珍しく頭が混乱しているので正常な判断ができない。
「頑張ってみます」
「上手くいかなければ、相談に乗るから」
「有難うございます」
これで、二人の会話が終了する。
マナは相談に乗ってもらった料理人に頭を垂れると、受け取ったレシピが書かれた紙に視線を落としつつ、エイルが壁に寄り掛かっている方に向かって歩いて来た。刹那、マナの悲鳴が響き渡る。
まさかこの場所にエイルがいるとは思わなかったのだろう、マナは動揺を隠し切れない。一方エイルは冷たい視線をマナに向け、料理人と何を話していたのか質問を投げ掛けていた。
「お菓子です」
「菓子?」
「予想以上に、お菓子作りは難しいもので……以前に作ろうとしたお菓子が、失敗しました」
「以前?」
彼女が言う「以前」というのは、エイルが気にしていた木の実の件であった。あの後エイルに美味しく食べて貰おうと頑張って菓子を作ったのだが、見事に失敗してしまった。その後自分なりに練習を重ねたのだが上手くいかず、今回料理人に正しい作り方と学んだという。


