ロスト・クロニクル~後編~


 フレイも悪魔ではないので、闇が包む中で息子相手に手合わせをすることはしない。それに親衛隊の仕事で疲れている中での手合わせは、相手の技術を磨く以前に疲れで集中できない。

 手合わせは別の日――そう聞いた時、エイルはホッと胸を撫で下ろし、父親の心遣いに感謝する。

 といってあの恐ろしく厳しい手合わせが無くなったわけではなく、いずれは行なわないといけない。親衛隊の試験を受ける為に一時帰宅した時フレイと手合わせをしたが、あの時は多少の手加減をしてくれたが、今回の手合わせに「手加減」という言葉は存在しないだろう。

 しかし実力を高め強くなるには、フレイの厳しい訓練を受けないといけない。それに弱いままでは親衛隊の足手まといになってしまい、最悪親衛隊を辞めないといけない。それに、ルークと互角に戦いたかった。

「休みは?」

「それは、まだ……」

「その日に行なう」

「わかりました」

「話はこれで終わりだ」

「……はい」

 フレイの言葉に頭を垂れると、踵を返し退出する。後方で「バタン」という音が響いた瞬間、エイルは激しい疲労感に襲われ溜息を付く。相手は自分の父親だというのに、毎回発せられるオーラに負けてしまう。

 だが、息子の立場を思って遭えて厳しく言っていることを知っているので、文句は言わない。

(疲れた)

 それが今のエイルの本音。親衛隊の仕事は普通にこなすことはできるが、父親の言葉は身体に堪える。エイルは再び溜息を付くと、身体を休める為に自身の部屋へ戻ることにした。

 その途中、マナの姿が視界の中に映りこんだ。世話になっているメイドを発見したエイルは彼女に声を掛けようとしたが、彼女が屋敷で働いている料理人と話していることに気付くと声を掛けるのを止めてしまう。

 正確な年齢を知らないが、マナと話している人物は二十代前半。年齢が近いということで話が合うのか、実に楽しそうだ。

 一体、何を話しているのか――クスクスと笑っているマナを見ていると、何故かエイルの心がざわめく。また、マナと話している若い料理人に対し、嫉妬心に近い感情を抱いてしまう。伯爵家の息子という立場を利用して邪魔してもいいが、エイルは権力を行使することはしない。