ロスト・クロニクル~後編~


 クリスティは、馬鹿を何よりも嫌っている。それは勉学での「馬鹿」というわけではなく、物事の道理を理解していない馬鹿だ。この場合、ミシェルは両方の面で「馬鹿」というべきか。

 フレイは相手が一国の公子なので、最低限の常識を心得ているだろうと考えていたが、今回の件でそれが無駄な考えと知る。と同時に、ミシェルの動向も気に掛けないといけない。

「シードは何と?」

「いえ、何も……」

「そうか」

 シードの考えを期待していたのか、彼が何も言っていないと知った時、フレイは何処か落胆した様子を見せる。しかし、それは一瞬の出来事。瞬時にいつもの気難しい表情に変わり、鋭い視線をエイルに向けた。

「で、仕事はどうだ」

「親衛隊の……ですか?」

「それ以外、何がある」

「た、確かに……」

 フレイは息子が親衛隊の一員になったことを喜んでいるが、その反面一族の名前に恥じない行動を取っているかどうか尋ねる。勿論、エイルはフレイの期待を裏切る行動は――一応、していない。

 しかし、残念ながら「大丈夫」と、力強く言うことはできない。何故なら、無謀にもルークに挑もうとしたのだから。

「その顔は何だ」

「い、いえ……」

「何か言えないことをしたのか?」

「……はい」

 あの件を隠していてもいずれフレイの耳に届いてしまうので、エイルは素直に例の件を話していく。

 勿論、フレイがいい表情を浮かべるわけがない。息子の行動に呆れているのか、溜息が漏れる。その溜息にエイルはビクっと身体を震わせると、フレイが発する迫力に負けてしまう。

 額に滲む脂汗。この場合、何か言ってくれた方が楽なのだが、フレイは何も発しようとしない。

 暫くの間、独特の緊張が続く。すると二度目の溜息を付いたフレイが徐に口を開き、一言「阿呆か」と、発した。その言葉は短いものであったが、エイルの反省を促すには十分な効果を齎す。もしエイルがラルフのようにプライドを持ち合わせていなければ、土下座をしていただろう。