ロスト・クロニクル~後編~


 この件でフレイは、何と申すか――

 高い智謀を持つシードであっても、今回の顛末から未来を予想するのは難しかった。だから、フレイの言葉を欲する。

 フレイから親衛隊隊長の地位を受け継ぎ、能力を期待されているというのに、まだまだフレイに頼っている。尊敬しているフレイに全く追い付けないことに情けなくなり、シードは溜息を付く。

 だからといって、シードが焦りを見せることはしない。自分が課せられた役割を果すことが、今彼の使命であるから。

「リデル」

「何でしょうか」

「今の話は、内密に」

「わかっております」

 エルバート側を混乱、または内部分裂を図るとしたらルークの件を公にしてしまった方がいいのだが、シードは何故かそれをしようとしなかった。別に相手に同情心を抱いているというわけではなく、今それを行なってはいけないと察していたからだ。また、フレイの命令もない。

 それに、エルバート側も馬鹿だけの集団ではない。公子ミシェルはあのような性格ではあるが、側近が全て主人に似ているわけではなく、中には切れ者も存在するだろう。現に、ルークが切れ者である。

 そのような者と戦って、果たして得策か――

 いや、この場合クローディア側が不利に働く。上手く相手が情報に乗ってくれればいいが、下手すると「クローディア側が偽の情報を流し、我々を混乱させようとしている」と、言われてしまう。

 そうなった場合、更に両国の関係が悪化してしまう。何とか今、平穏が保たれているクローディア。勝手に動きこの平穏を崩壊させていいものではなく、平穏が崩れれば多くの国民が不幸になってしまう。

 流石に、それは避けなければいけない。

 だからリデルに、内密にして欲しいと頼んだ。

「話は終わりだ。仕事に戻ってくれ」

「はい」

「私も、後で行く」

「お待ちしております」

 シードの言葉を受け取ったリデルは深々と頭を垂れ敬意を示すと、顔を上げると同時に踵を返しシードの前から立ち去った。彼女の姿が消えるとシードは長い溜息を付き、ルークとの手合わせの状況を思い出す。互いの実力は互角に思えたが、どちらかといえばルークの方が勝っていた。