将来、一国を背負わなければいけない人物が発した本音に、衝撃が走る。ルークは冷静を装うが、先程までミシェルを制していた人物の顔から血の気が引き、互いの顔を見合っている。
まさか、これほどまで――
しかしミシェルに、ルークの気持ちは伝わらなかった。
◇◆◇◆◇◆
ルークとの手合わせを終えたシードは、副隊長リデルに手合わせの結末を事細かに話していた。
彼女はエイル同様に、手合わせでシードが負けるということを知っていたので、この結末は予想外だった。
それ以上に、ルークの本音にリデルは言葉を失う。彼は滅多に感情を表面に出さないので、何を考えているのかいまいちわからない人物であったが、誰よりも母国エルバードを考えていた。
だからシードに敗北を願い、ミシェルに「全てが己の思い通りに運ばない」ということを学ばせたかった。
だが、結末は最悪だった。
「で、彼は大丈夫だったのでしょうか?」
「心配か?」
「普通は……」
「そうだな」
内心、シードのルークの身を心配していた。彼はミシェルに脚蹴りされ、尚且つ石を投げ付けられた。幸い当たり所が悪くはなかったが、自分の部下に対しあのような仕打ちをしていいものではない。
同情心を抱くが、それを言葉として彼に発することはしない。それをした場合、彼のプライドを傷付けてしまう――そう感じ取ったからだ。また、ルークもそのような言葉を欲していない。
「フレイ様に、ご連絡を――」
「いや、それはいい。手合わせの現場には、見習いの三人がいた。其処からフレイ様に連絡が行く」
「そうでした」
新人の三人は、エイルとアルフレッドとシン。エイルはフレイの息子なので、彼からフレイに連絡が行くとシードは予想していた。それに親衛隊の隊長と副隊長がフレイのもとに赴くと、敵側の目が更に厳しくなってしまう。だからこの場合、エイルの口から顛末を伝える方が確実だ。


