「お兄ちゃんは、お兄ちゃんよ」
「兄……ですか」
「いけないの?」
「いえ、そのようなことは……」
シェラの発言に圧倒されたのか、シードは言葉を続けることができない。しかしエイルはシェラの兄ではなく、全くの勘違いといっていい。だが、シェラの精神状態を第一に考えれば、このまま嘘をし続けるのが得策。それに本当の兄のように懐き、疑う素振りも見せない。
シードはエイルに視線で合図を送ると、側に引き寄せる。そして耳打ちを行い、このまま兄を演じるように命令する。
「宜しいのですか?」
「シェラ様の為だ」
「……わかりました」
「不満か?」
「いえ、不満では……」
言い辛い内容なのか、奥歯に物が挟まったような言い方をする。兄を演じることに関しては不満がないが、それによってミシェルがどのように動くのか予想がつかない。現にシェラがエイルを「お兄ちゃん」と呼んでいた時、いい表情をしておらず、尚且つ捨て台詞を吐いた。
「……そうか」
「いかがいたしますか?」
「まずは、様子見だ」
「はい」
下手に動けば、相手の思う壺。
だから、動いてはいけない。
そう、シードは言い聞かす。
エイルとシードが部屋の隅で話していると、不審に思ったシェラが二人のもとへやって来る。自分の悪口を言われていると勘違いしているらしく、シェラは頬を膨らましている。シェラの機嫌の悪さにエイルは渋い表情を浮かべ、一方シードは明後日の方向に視線を向けていた。
「お兄ちゃんの意地悪」
「意地悪!?」
このまま機嫌が悪いと後々面倒になるので、エイルは必死にシェラを宥めるが、なかなか機嫌を治してくれない。見兼ねたシードは魔法使用を許可すると、シェラは瞬時にその場で飛び跳ねはしゃぎだす。余程魔法に興味があったのだろう、どういう雰囲気の魔法を見たいのか早口で言いだす。


