ロスト・クロニクル~後編~


 久し振りに頭を撫でられたことが嬉しいのだろう、シェラはもっと撫でてほしいとせがみだす。これ以上撫でては、折角丁寧に梳かれている髪を乱してしまうと、エイルは一度手を止める。しかし撫でることを止めた方が不満だったのだろう、シェラは可愛らしく頬を膨らます。

「……止めちゃうの?」

「髪、いいのか?」

「また、侍女に頼むもの。それより、お兄ちゃんに撫でられる方がいいわ。だから、お願い」

 瞳を潤ませながらせがまれると、流石に断ることはできない。また、シェラの兄として振る舞うと決めたからには、彼女の要望に応えてやらないといけない。エイルはフッと口許を緩ますと、要望の通り頭を撫でてやる。すると満足したのだろう、シェラは機嫌を治す。

 ほのぼのとした、兄妹の時間。

 それが長く続くと思われたが、二人の時間を割く者――アルフレッドが登場し、エイルに声を掛ける。

「よお!」

「ア、アルフレッド」

「何、驚いている」

「驚いては……」

「声が震えているぞ」

 アルフレッドからの指摘で、エイルは自身の声音が震えていることに気付く。同時に、タイミングが悪い登場に心の中で毒付く。エイルがシェラと一緒にいる理由を知らないアルフレッドは、どうして二人がいるのか尋ね、それ以上に精神を病んでいるはずのシェラが回復していることに驚く。

「お兄ちゃん、この人誰?」

「お、お兄ちゃん!?」

「ねえ、誰?」

「こ、こいつは……」

 ここはきちんと説明しないといけないと、シェラを残しエイルはアルフレッドを連れて行く。シェラの耳に届かない距離まで離れると、どうしてシェラと一緒にいるのか。どうして「お兄ちゃん」と呼ばれているのか説明し、シェラに気付かれたくないので協力してほしいと頼む。

 当初エイルの説明にアルフレッドは絶句するが、流石王家への忠誠が人一倍篤い人物。立派な胸を張ると、協力を申し出る。だが、ひとつ気に掛かる――というか不安になる部分があったのだろう、アルフレッドはエイルにシェラの兄の名前を教えてほしいと懇願する。