しかし尖っている部分に指を引っ掛けてしまったのだろう、シェラはか細い悲鳴を上げつつ手を引っ込める。傷付けた箇所は人差し指の先で、鮮血が滲み出ている。小さい傷であったがシェラにとっては苦痛に等しいのだろう、眼元に涙を浮かべながらエイルに縋り付く。
「怪我しちゃった」
「血が……」
「どうしよう」
「まず、止血を――」
「ハンカチ、あるわ」
「汚れるけど、いいかな」
「……うん」
シェラは取り出したハンカチをエイルに渡すと、大人しく手当てを待つ。だが、血に対し強い恐怖心を抱いているのだろう、身体が震えている。自身が流した血によって思い出したのは、過去の出来事。それが回復しつつある精神を再び傷付け、シェラの繊細な心を痛める。
家族を失った日。
多くの血が流れた日。
そして、国が奪われた日。
「お、お兄ちゃん」
「どうした?」
「……怖い」
「怖い?」
「皆、いなくなっちゃう」
この言葉によって、エイルはシェラが何を考えているか瞬時に理解する。彼女にとってあの出来事はトラウマに等しいモノで、この悲しみから逃れたい一心で、シェラはエイルに抱き付く。
目の前からいなくなってしまったと思っていた兄が、このように目の前に現れお喋りをしてくれた。シェラはエイルの胸元に顔を埋めると、泣きじゃくる。立場などあらゆる面を考えればシェラに触れていいものではないが、この状況でシェラを見捨てるほど悪魔ではない。
「大丈夫」
「お兄ちゃん、いなくならないで」
これ以上、大切な人物を失いたくないシェラは、エイルの服を強く握り締める。すると肌から伝わる温もりによって徐々に心が癒されてきたのだろう、強張っていた表情が緩みだす。シェラの表情の変化にエイルは安堵感を覚えると、そっと頭を撫でてやることにした。


