ロスト・クロニクル~後編~


 しかしシェラが、ミシェルの言葉を受け入れることはない。大好きな兄と本能的に嫌っているミシェルを天秤にかけた場合、兄の方に傾くのは間違いない。早くミシェルの側から離れたい――というより早く兄と何処かへ行きたい気持ちが強いシェラは、エイルと共に何処かに出掛けてしまう。

「シェラ様!」

「お、お待ちを――」

 空しく、シードとリデルの叫びが響く。

 だが、シェラが二人の叫びを聞き入れることはなく、エイルの手を強く握り引っ張っていく。一方、シェラに無視されたミシェルは、エイルを兄と呼び連れて行ったことに癇癪を起す。

 あいつが。

 何故。

 ミシェルの心に、憎悪が渦巻く。

「くそ!」

 ミシェルは大声で叫び、内に溜まっている感情を爆発させると、大股で二人が立ち去った方向とは逆に向かって歩いて行く。ミシェルの性格からして二人の後を追い、仲をぶち壊すものだとシードとリデルは考えていたが、予想外の行動に何を考えているのかわからなかった。

 ミシェルは時に、考えの斜め上を行く。

 というのはわかりきっていたので、親衛隊の面々にミシェルの行動に注意を促すのを忘れなかった。


◇◆◇◆◇◆


「お兄ちゃん」

「な、何でしょう」

「お兄ちゃん、変!」

「変……かな」

「変よ。お兄ちゃん、どうして敬語使うの? いつものお兄ちゃんじゃない。何かあったの?」

「い、いや……」

「ねえ、どうしたの?」

 と、尋ねられてもエイルは明確に答えることはできない。シェラはエイルを兄と思っているが、エイルにとってシェラはクローディアの女王。立ち入ってはいけない主従関係が存在し、いくらシェラが「お兄ちゃん」と呼んでも、エイルがそれに応えていいものではない。