ロスト・クロニクル~後編~


「そんなに、兄が……」

「大好き」

 純粋無垢と呼べる笑顔は、一見「可愛い」と表現できなくもないが、シェラのブラコン要素を知っている者達は内心複雑そのもの。特にミシェルはシェラの前に歩み出ると、兄以外の異性に興味を示して欲しいと頼むが、兄大好きなシェラが聞き入れてくれるわけがない。

 その時何かを感じ取ったのだろう、シェラは反射的に扉がある方向に視線を向ける。隠れていたリデルから離れると、いそいそと扉の方向へ駆け寄り、廊下の先にいる人物に声を掛ける。

「お兄ちゃん!」

「えっ!?」

「いつ帰って来たの?」

「いや、僕は……」

 シェラが「お兄ちゃん」と呼んでいる人物は、たまたま廊下を歩いていたエイルであった。一方、シェラから突然「お兄ちゃん」と呼ばれ反応に困っているらしく、あたふたとしている。

 エイルはシードとリデルの姿を確認すると、この状況から救い出してほしいと頼む。シードとリデルは、まさかこのような状況になっているとは思わなかったのだろう、一瞬言葉を詰まらす。しかしエイルを救い出さないといけないと、シードはシェラを説得していく。

「この者は……」

「お兄ちゃんでしょう」

「い、いえ……」

「お兄ちゃんは、お兄ちゃんだもん」

 シードがお兄ちゃんと呼ぶ人物のことを否定していることに、シェラはご機嫌斜めになったらしく頬を膨らます。

 お兄ちゃんはお兄ちゃん。

 絶対に、間違いない。

 そう熱く語るシェラに、シードとリデルは頭痛を覚える。それ以上に困っているのはエイルで、自分はどうすればいいかと、シードに視線で訴えかける。だが、いい答えが見付からないのだろう、即答を避ける。するとシェラはいきなりエイルの腕を引っ張り、何処かへ連れて行こうとする。

 立場上、エイルがシェラの頼みを突っ撥ねることはできない。仕方ないという素振りを見せつつ、シェラの意志に従う。この状況に一番納得いかないのがミシェルで、シェラがエイルを連れて行くことに不満らしく、あれこれと文句を言い連れて行くことを許さなかった。