もう少し――
ほんの少しでいいが精神面で成長して欲しいものだが、ミシェルに成長を望む方が間違っていた。
そっと、包帯が巻かれている額に触れてみる。多少痛みが残っているが、生活に支障を来たすほどではない。しかし傷の痛み以上に、心の痛みが強い。また、精神面のダメージも計り知れない。
ルークは溜息を付くと、自分の行動を思い出していく。彼は母国の将来を思い、ミシェルの考えを改めて欲しいと願った。現在の状況では、確実にエルバード公国は傾いてしまう。
現大公が生きている限りエルバード公国は安泰だが、現大公が亡くなった場合どうなるか――
年齢は80に近く、最近は体調を崩していると聞く。上手くクローディアを乗っ取り、この国から採掘される水晶を手に入れ母国を潤しているが、それが永遠に続くことは有り得ない。
本当に、大丈夫か。
一部から、囁かれている言葉。
勿論、身内の言葉だ。
表面上、彼等はミシェルに忠誠を誓っているが、彼の数々の問題行動に嫌気がさしている。
だから言う。
本当に、大丈夫か――と。
現大公が亡くなった後、ミシェルがその後を継いだ場合、確実にエルバード公国の状況が変化する。彼等はその点を危惧しているが、ルークは別の意味で母国の将来を心配していた。
支配する側は、いつの間にか現在の状況に慣れきってしまう。また、クローディア王国はエルバード公国に、戦争を仕掛け立場の逆転を狙おうとしていない。結果、生温い状況が続く。
この生温い状況で、クローディアが何かを仕掛けてきたら、果たして対抗できるのかわからない。
それにこの国にいるのは、ミシェル。何かがあった場合、彼が指示を出さないといけないのだが、これは期待できない。今、彼は女王シェラに夢中で、彼女しか考えていないのだから。
しかし、何故何もしてこないのか。考え方によっては、今ミシェルを何とかしてしまえば後が楽である。言い方を悪くすれば、エルバード公国の現大公は後数年で亡くなるだろう。それだというのに、何も仕掛けてこない。何か考えがあって行動してこないのかと、彼等の考えを予想する。


