ロスト・クロニクル~後編~


 彼の子供っぽい性格を考えると、何を仕出かすかわからない。

 最悪、無理難題を吹っ掛けてくるに違いない。アルフレッドの言葉にエイルを含め、シンの顔も歪む。

 ミシェルを甘く見ない方がいい。それが、三人が出した結論。その言葉の裏側に隠されているのは「曲者」や「強い相手」という意味合いではなく、下手に敵に回すと痛いしっぺ返しが待っているということだ。

 これなら、彼の守護者ルークの方が何十倍もいい。手合わせの件は悪い思い出だが、彼は常識を弁えているのでミシェルのように我儘を言うことはしない。何より、癇癪を起こさない。

 問題は、シードの方だろう。彼は母国の為に敗者になることを望んでいたが、結果的に勝者になってしまった。エルバード側や敵に回った者から、嫌らしい非難を受けるのは間違いない。

 フレイ同様に、シードも敵が多い。その理由のひとつは、若くして親衛隊隊長の地位に就いているから。そしてもうひとつというのは、容姿端麗で仕事も完璧にこなす優秀な人物。

 シードに敵対心を抱いている者は、自分に無い物を持つことに嫉妬心を抱いている。簡単に説明すると、このようなものだろう。フレイに一部始終を話した場合、どのような反応を示すか――

 エイルは、頭痛を覚えた。

「でも、僕達は何もできない」

「そうだな」

「しかし、あの男は大丈夫かな?」

 シンの何気ない言葉に、エイルとアルフレッドは互いの顔を見合う。シンが言う「あの男」というのは、勿論ルークだ。シンがルークのことを心配することに何か事情があると察したアルフレッドは、彼女を茶化そうとするがその前にエイルの言葉がアルフレッドの茶化しを止めた。

「大丈夫だよ」

「だと、いいけど……」

「だからって、八つ当たりするか?」

「当たった場所が悪かったら、失明だね」

 相手が敵対する国の人物であっても、あのような光景を見ると同情心が湧いてくる。石が当たった箇所が数センチずれていたら、片目に直撃していた。そしてエイルが指摘するように、彼の視力を奪っていただろう。

 もし失っていた場合、ミシェルは責任を取っていたか――いや、彼はそれを行なわない。エルバード公国の公子ミシェルは、精神年齢が実年齢と比例しない。という話を聞いていた。