ロスト・クロニクル~後編~


「そんなに、怒らないで下さい」

「あ、貴方は!?」

 突然のエイルの登場に、ラルフを怒っていた者は言葉を失う。ラルフの職業斡旋でこの村を訪ねているので、村の者はエイルが貴族のご子息と知っている。また、今日は親衛隊の制服を纏っているので何か特別な用事を持って訪ねてきたと察したらしく、村長を呼びに行くという。

「いえ、ラルフを借ります」

「こいつで宜しいのですか?」

「勿論」

「ラルフ、行くぞ」

「に、荷物が……」

「じゃあ、運んでから」

「手伝って?」

 折角馬に乗っているのだからラルフは馬で荷物を運んでほしいと頼むが、エイルが聞き入れてくれるわけがない。そもそもこの馬は荷物を運ぶ馬ではなく、何よりラルフにこき使わせるわけにはいかない。相変わらずの辛辣な言葉の数々に、ラルフは項垂れるしかない。

「一応、村長に報告はしておきます」

「助かります」

「もし何かありましたら、ご連絡下さい」

「有難う」

「では、ごゆっくり」

 意味有りげな言い方にラルフは行かないで欲しいと訴えるが、叫び声は空しく響き渡る。こうなると誰も救いの手を差し伸べてくれないので、荷物は自分で目的の場所まで運んでいかないといけない。エイルはラルフの後方から馬で追い立てると、早く荷物を運ぶように促す。

「け、蹴らないで」

「お前次第」

「エイルって、時々……」

「何?」

「な、何でも……」

「ほら、急げ」

 このままやり取りを続けていても埒が明かないので、エイルは器用に馬を操ると前脚を高く上げて見せる。馬に踏み潰されそうになったことで身の危険を感じ取ったのだろう、ラルフは落とした荷物を拾うと、顔を真っ赤にしていたとは思えないほど全速力で駆け出す。