ロスト・クロニクル~後編~


「そろそろ……か」

 囁く程度の声音でフレイは呟いたつもりだが、イルーズの耳にはハッキリと届く。父親の言葉の意味は何か――と、考えてしまう。父親はどのような意味で発したのか、失礼とわかっていたがその理由を尋ねてしまう。息子の疑問にフレイは苦笑すると、その意味を話していく。

 エルバード公国の情勢の変化をいち早く見抜き、反撃のタイミングを見誤ってはいけない。

 何気なく発せられた言葉の中には、そのような意味が籠められていた。いつまでも、エルバード公国に都合がいいように動くわけもなく、今回の件が彼等にとっての躓きのひとつになるだろう。また、あのような傍若無人のミシェルにこのまま国を蹂躙されるわけにはいかない。

 人生、幸運が長く続くわけがなく、ましてや多くの悲しみの上に成り立っている幸運など、いずれ砂のように崩れ去る。その反動は予想以上に大きいもので、特にミシェルの未来は想像を絶する不幸が待っていると予想する。そしてフレイの脳裏に過ぎったのは、メルダースの学園長クリスティ。

 あの方は努力を行っている馬鹿や阿呆、一族や親の権力を盾にして好き勝手に振る舞っている者を嫌う。それらの悪い部分を全て持つミシェルは、まさに嫌悪の象徴といってもいい。もしミシェルがクリスティに出会ったら、問答無用の魔法によっての一撃は免れない。

「共に話し合い、大神官殿の意見を聞かないといけない。あの方は、物事を読むのが上手い」

「父さんも、同じでは……」

「私は、第一線を退いた身……多くの情報を得ることはできない。まして、下手に動けば……大神官殿なら、そのような心配はないだろう。聖職者という隠れ蓑を持っているのだから」

「流石に、聖職者を手に掛けることは――」

「そういうことだ。だからあの時も、聖職者に咎が行かなかった。しかし、結果的に王家は……」

「シェラ様が、不憫です」

「あのような状態で、多くを背負わすわけにはいかない。だから、我々が何とかしなえれば――」

「では、急いで――」

 イルーズは父親に向かい頭を垂れると、小走りで部屋を退出する。フレイは暫く息子が立ち去った扉を眺めていると、盛大に溜息を付き神妙は表情を作る。息子の前ということで冷静な態度を取り続けていたが、いざ一人になると不安感が付き纏い、心の奥底が騒めきだす。