ロスト・クロニクル~後編~


 まるで眠りについたかのような茨であったが、そこから発せられるオーラは明らかに殺気が籠められ、周囲に無言の圧力を掛けていく。それを真っ先に感じ取ったのはオルデランで、聖域に漂う空気の変化に脚を止めると、女神が機嫌を害してしまったのだと想像する。

 お許しを――

 再び、心の中で詫びる。

 しかしどのように詫びたところで、この悪行が許されるわけではない。それにこの行為により女神がクローディアの民に罰を下すのではないかと、オルデランは恐れる。もし、想像を絶する裁きが下ってしまったら――オルデランは珍しく表情を強張らせ、未来を危惧する。


◇◆◇◆◇◆


「何ということを……」

 そのように言葉を発したのはフレイで、怒りを通り越して呆れてしまっているのか、盛大な溜息を漏らす。ミシェルの言動は前々から気に掛かっていたが、まさかこれほどのことを仕出かすとは――だが、第一線から引退している身なので、フレイが口出しできる問題ではない。

「エクセリオンは?」

「無事です」

「それならいい」

「しかし、何故――」

「シェラ様だろう」

 父親の発言に、イルーズは目を見開く。瞬時に理解するものがあったのだろう、イルーズが動揺しだす。まさかミシェルが、ここまでのことをしてくるとは――行動が読めないだけあって、頭痛を覚える。そして、とうとうここまでのことをしてしまったと、顔が引き攣る。

「本当に、国を――」

「それはないだろう」

「と、申しますと」

「シェラ様以外、眼中にない。あの者がエクセリオンを手にしようとしたのは、シェラ様との婚姻」

 それの近道として行っただけで、クローディアの統治に興味を示さないと読み取る。ただ、統治しなくても今のように好き勝手に振る舞われたら、迷惑を蒙るのはクローディア側。切れ者と呼ばれているフレイでも、流石に今回の出来事に対していい回答を導き出せないでいた。