ロスト・クロニクル~後編~


 ミシェルを止めないといけないという思いが強かったが、今の発言が身体を硬直させてしまう。これがシードやリデルであったら迷わず動いていただろうが、どちらかといえば躊躇いの方が大きい。それでも「女神への侮辱と王家への忠誠」の気持ちを奮い立たせ、ミシェルを制する。

「いいのか?」

 下っ端の分際で、自分に命令する。それが余程癪に障ったのだろう、クローディアをもっと目茶目茶にしてやると言い、周囲を動揺させる。流石に今の一言が効いたのだろう、取り押されていた者達の力が緩む。隙を見て彼等から逃れたミシェルは罵倒に近い言葉を吐き捨てる。

 自分は偉い。

 誰も、自分を止める資格はない。

 そのように自負しているのか、ミシェルはフンっと鼻を鳴らすと、エクセリオンの前に向かう。エクセリオンは刀身が蒼い水晶で作られた美しい剣で、その輝きは女神の意向を表す。普段この剣は女神エメリスの像に抱き締められるようにして祀られているのだが、今女神の像は存在しない。

 その代わりにエクセリオンを護っているのは、無数の刺を携えた茨。そう、この茨こそが女神の像が変化したもので、クローディアが他国の支配下に置かれていることを女神が嘆いている。また相応しい者以外に触れさせないという意思なのか、幾重にも絡み付いていた。

「何だ、これ」

「これこそが、女神のご意志」

 聖域に響き渡るのは、オルデランの力強い声音。呼吸を整えやっと追いつくことができたのだろう、オルデランはミシェルの前に進み出ると、女神の像がこのようになった原因を話していく。そう、全ての原因はエルバード公国がクローディアを侵略したことにはじまる。

 女神は、エルバード公国のやり方を快く思っていない。思っていないからこそ、像が茨に変化しエクセリオンを守護する。オルデランの話にミシェルは顔を引き攣らせると、像が茨に変化したことを嘲笑う。また、そのようなことはあり得ないと言い、嘘つき呼ばわりする。

「ご自身の目で見られて尚、わからないのですか。このようなこと、我々ができるはずがない」

「その発言も、信用できない」

 何を言っても信じないと言いたいのだろう、ミシェルはエメリスの存在をどうでもいいと考えている。彼にしてみればエクセリオンを手に入れることができれば、クローディアの玉座に座ることができる。その考えだけで行動し、オルデランの忠告を全て突っ撥ねていく。